今、多くのユーザー企業がアジア中心にグローバル展開を急ピッチで進めている。というわけで、日本のITベンダーも海外M&Aを含め事業のグローバル化を急いでいる。ところが、日本のベンダーには致命的な問題がある。グローバル化するユーザー企業はそれにふさわしい経営管理手法と情報システムを求めるが、日本のベンダーがソリューションを提示することは不可能なのだ。

 なんせ日本のITベンダーは、ユーザー企業以上にドメスティック。そんな企業がどのようにしたら、ユーザー企業にグローバル経営のソリューションを提供できるというのか。そんな日本のベンダーの限界を見透かしてか、外資系ベンダーは、「我々は真のグローバル企業です。その知見をソリューションとして提供します」とユーザー企業にささやく。日本のベンダー、絶体絶命の危機である。

 一般に、企業のグローバル化は3段階論で語られることが多い。第1段階が「輸出企業」で、中堅以下の製造業の多くがこの段階。そして第2段階が「多国籍企業」で、大企業も含めグローバル展開している企業のほぼ全てがこの段階。その後が最終段階の「真のグローバル企業」である。この「真の」が曲者だが、その話は後にする。

 「輸出企業」の段階は分かりやすい。少し分かりにくいのは「多国籍企業」の段階だが、要は現地最適化された現地法人や買収した企業がそれぞれの国で自前経営をしており、本社には月次で収益を報告しているような段階だ。で、「真のグローバル企業」は経営リソースがグローバル最適化されており、全ての国の事業内容が「見える化」され本社で一元的に把握できている段階だ。

 さて、IBMやアクセンチュアなどの外資系ベンダーは表現こそ違えど、自らを第3段階にあると位置づけている。一方、富士通やNECなどの日本勢はせいぜい第2段階。メーカーではないNTTデータは第1段階を飛び越して、M&Aラッシュでようやく第2段階の入り口にたどり着いたに過ぎない。そんなわけで普通に考えると、グローバルソリューションでは日本のベンダーは外資に全く歯が立たないということになる。

 だが、この理屈は本当か。グローバル化の3段階論は典型的な発展史観だ。つまり、第1段階より第2段階が、第2段階より第3段階が優れており、先進的だということになる。しかも、第1段階や第2段階にある企業に対して「第3段階を目指せ」というのは、これまた典型的な「As-Is、To-Be」論である。

 考えてみれば、以前のERPブームの際にも似たような議論があった。欧米企業のベストプラクティスがERPに実装されているとされ、ERP導入により経営の見える化が図れると喧伝された。そして、日本企業の中でもグローバル化が進んだ一部の大手企業がERPを導入することで、「真のグローバル企業」に脱皮することを目指した。いわゆる「ビッグバン・プロジェクト」で、その多くは壮大な失敗に終わった。

 まあ、ツール(ERP)で経営の在り方を変えられるという、途方も無い幻想の下に行われたプロジェクトだから失敗も必定。では、今はどうか。外資系ベンダーは経営コンサルとして、グローバル化における自らの経験や知見を提供するという。確かに、そこは違う。ただ、「As-Is、To-Be」論であることは、以前と変わらない。

 問題は、グローバル化する企業の経営の在るべき姿(To-Be)が、必ずしも第3段階なのかということだ。確かに欧米企業のように、事業ポートフォリオを動的に組み替えることを志向する企業は、リアルタイムに全世界の事業の状況が見えている必要があるため第3段階に行くことは必要だろう。しかし、企業買収などで海外進出を急いでいる企業は、当面は第2段階の「多国籍企業」で十分ではないのか。

 そもそも、そうした欧米流の発展史観が正しいのかどうかも疑わしい。グローバル企業としては日本のトップランナーである総合商社が、そのようなストーリーで“発展”したという話は寡聞にして知らない。欧米企業はともかく、おそらく日本企業が目指すグローバル経営のゴールは、企業によって第2段階と第3段階の間のどこかであろう。

 そして、どのようなグローバル経営を志向するかによって、在るべき情報システムも変わる。より第3段階を志向するならば、グローバルでチンイツのITインフラ、チンイツのERPが必要になるだろう。しかし、各国の現地に根ざした「多国籍」を大事にするなら、情報システムも完璧に統合する必要はなく、データ連携やガバナンスが強化されればよいということになる。

 そんなわけで、日本のITベンダーもどうやら絶体絶命ではないようだ。ただ、ユーザー企業の多くの経営者は、どのようにグローバル経営を確立するかで迷っている。だから外資系ベンダーの提案にも耳を傾ける。日本のベンダーもそうしたソリューションを打ち出さないと、それこそ絶体絶命の危機に陥るかもしれない。そのためには、ITベンダー自らが“日本流”のグローバル経営を確立する必要があるだろう。