2月7~8日に「都道府県CIOフォーラム 」の第9回春季会合が東京・目黒で開催された。同フォーラムは、全国47都道府県の情報化統括責任者(CIO)または情報化推進担当責任者(CIO補佐官、情報政策課長など)で構成。日経BPガバメントテクノロジーは、事務局として企画・運営に携わっている。2003年の設立から年2回のペースで全体会合を重ねてきた。

 今回の会合では議論のテーマとして、市町村での導入が加速してきた自治体クラウドに対する支援策のあり方、標的型攻撃メールなど深刻化する情報セキュリティの脅威への対策、東日本大震災で必要性が再認識された自治体間や官民の“連携”によるBCP(業務継続計画)の強化策、そして一連の課題に向き合う自治体CIOの役割と課題を取り上げた。

 議論の詳細は、3月末発行の日経BPガバメントテクノロジー 2012年春号や「ITpro 電子行政」サイトに順次掲載するが、ここでは2つのトピックに絞って紹介する。

マイナンバー番号カードは無料発行を検討

 ディスカッションに先立って、「マイナンバーで変わる地方自治体」と題して、総務省自治行政局の高原剛 住民制度課長が基調講演に登壇。閣議決定が1週間後に迫った「マイナンバー法案」(正式名称は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案」)の要点を説明し、社会保障・税番号制度が自治体事務に及ぼす影響についても解説した。

 自治体CIOとの質疑応答の中で、住民の申請に基づいて市町村長が交付することになる「番号カード」について、現行の住基カードでは多くの自治体が発行手数料として500円を住民から徴収しているのに対し、「番号カードは無料で交付できるよう、経費の国費負担について財務省と交渉に入る」方針を明らかにした。また、住基カードの発行枚数が年間100万枚程度であるのに対し、番号カードでは年間数千万枚に達する可能性を踏まえ、「発行・管理の事務フローや仕組みを、法案の閣議決定後に地方の意見を聞きながら検討する」とした。

 制度の導入に際しては、自治体やITベンダーのシステム開発・改修の作業負荷などが一時に集中しないよう、地域別に時期をずらしてスタートさせる方法もあり得る。しかし住民基本台帳法の法案作成時の内閣法制局の見解は“(制度開始時期は)オールジャパンで一つ”というものだった。このため今回も、段階的な導入は断念したという。

 国の機関や地方自治体の間で住民情報を連携・照会する際の仲介機能を果たす「情報連携基盤」の運営主体としては、国の直営でデータセンターを構える意向を示した。これに向け、4月に大臣官房に「番号室」を設置する方針だ。番号生成機関として2013年4月に新設する計画の地方共同法人「地方公共団体情報システム機構」への委託は、住基ネットや公的個人認証システムの運営も担うため、「業務が集中しすぎるのであり得ない」との見方を示した。

 地方自治体の事務に対しては、団体間の連携だけでなく、庁内部課間の名寄せ(団体内連携)の効率化への効果も強調。「総合窓口化」による住民サービスの向上に加えて、バックオフィス業務の軽減に応じて現場調査などを充実させることで、「(書類ではなく)人に向き合う行政」への転換を促す方針である。各自治体がシステム対応を基本設計する際に必要となる各種インタフェース仕様などは、2012年度後半(秋~冬)に開示される見通しを示した。

市町村クラウドの導入支援が急拡大

 複数の市町村が基幹業務システムなどをネットワーク経由で共同利用する「自治体クラウド」については、市町村の取り組みを支援する都道府県が急増している実態が明らかになった。

 2012年1月に全47都道府県に実施した事前のアンケート調査では、31団体が何らかの支援や取り組みを実施中または具体的に予定していると回答。具体的な予定がない団体は、1年前の26団体から16団体へと大きく減少した。市町村の支援へと方針転換したきっかけとしては、市町村からの支援要請のほかに、首長の主導という回答も挙がった。

 ただし、都道府県が果たす役割についての見解は、大きくばらついている。フォーラムの議論では、「小規模の町村だけでは自主的な取り組みが難しい」との指摘がある一方で、「経費節減などのメリットがあると判断できるなら、市町村が自ら主体的に動くのが本来の姿」との意見もあった。「都道府県が市町村クラウドに相乗りするなど、都道府県にもメリットがある仕組みにしないと支援しにくい」との本音も漏れた。「県内の2地域で別々の取り組みがあり、一方は県が支援し他方は総務省に直に相談しているが、ともにうまくいっている」という事例もあった。

 また、自治体クラウドを導入・運用している11組織(計246自治体)への独自の調査結果を、近畿大学経営学部の津田博准教授が報告。目的別(経費節減、業務効率化など)、組織形態(一部事務組合、協議会など)、アプローチ方法(システムの共通化、業務の標準化など)、契約形態(一括、個別など)などを軸に、「自治体クラウドの類型化」の分析を紹介した。

 自治体クラウドの導入を推進する総務省地域力創造グループの濱島秀夫地域情報政策室長は、「国全体で見ればサポーターは多い方がいい。都道府県が技術情報の提供などで市町村を支援しているとまとまりがよくなり、参加自治体が増え、結果として経費の“割り勘”効果が大きくなる」と、何らかの形で都道府県が関わることを推奨した。

■変更履歴
当初、番号制度の導入時期を全国一斉にしたのは内閣法制局との調整の結果としていましたが、番号制度に関する調整はありませんでした。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2012/02/15 18:30]