年明け早々、米国ラスベガスで開催された2012 International CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー、以下CES)に参加してきた。今回も多くの新製品が発表されたが、その中で今回の主役はスマートテレビだった。CESはもともと家電製品の展示会であり、スマートテレビは王道と言っていいだろう。

 CESの会場内では日本勢を含む家電メーカー各社の、スマートテレビの製品や試作品が出そろった。ここで改めて気付いたことがある。「スマートテレビは技術的にはなんら新しくはない」ことだ。

トータルなシステム作りも重要

 開発者の苦労は重々承知している。ただ、テレビは既に相応のインテリジェント化を果たしている。またスマートテレビと連携するスマートフォンやタブレットは先行して市場に受け入れられている。もはやスマートテレビを材料から作っていく状況ではなく、スマートテレビ市場への参入自体はそう難しくはない。実際、周辺機器メーカーや日本ではあまり名前を聞かない企業、スタートアップに近いプレーヤーも市場に参入し、それなりの製品を展示していた。

 実はスマートテレビの競争の本質は、受像機の技術開発ではなく、コンテンツのラインアップやデータベース、またユーザーインタフェース(UI)にあるのではないか。だとすると、スマートテレビの製品開発では、ハードウエアそのものよりも、むしろトータルなシステムの〈連携〉にこそ力点を置く必要がある。そしてそれを実現するための分野横断的、レイヤー縦断的なアプローチを進めることが重要となる。

“走りながら考える”開発が求められる

 とかく日本企業の組織は、製品ごとの縦割り構造になりがちだ。そうした組織のままでは、スマートテレビのようなカテゴリーキラーの製品は開発しづらく、事故も生じやすい。とりわけスマートテレビをすべて単独で作ることは合理的ではない。決済・認証などの機能を含め、様々なプレーヤーとの連携が必要となる。

 ある日本メーカーの開発者は、決戦の地はテレビそのものではなく、スマートフォンやタブレット端末との連携を実現することだと語る。また、それを改めて一つのパッケージとして提供するためのトータルなUIを作ることが重要だと指摘する。

 ただシステム連携は、簡単に見えて相当奥が深い。また日本企業にとって苦手科目でもある。それはスマートフォンで見られる様々なトラブルからもうかがえる。

 一方で最初から完璧を目指さずに製品開発を進める必要も感じる。今回のCESでは、今をときめく韓国勢ですら別段優れた製品を発表しているわけではなかった。コンテンツの調達には米グーグルや米アップルでさえも苦労している。

 テレビ受像機はライフサイクルが長い。またテレビ産業の構造は強固である。このため特に国内市場では、製品を売るには「しっかり作らなければ」という意識が、これまで強すぎた。ただ、スマートテレビに関しては「走りながら考える」開発スタイルが重要になる。そのうえで「しっかり作る」ことを両立させるのが、スマートテレビやスマートフォンなど次世代製品開発の要諦となるだろう。

 こう考えるとスマートテレビは、事業としてかなり難易度が高い。ただ克服しなければ、21世紀に製造業が生き残るための付加価値は獲得できない。CESでも中国勢の気配をあちこちで感じた。彼らとの価格競争は相当厳しい。

 幸い、市場にはまだまだ事業機会が残されている。スマートフォンやタブレットの開発を含め、むしろ本番はこれからだ。日本勢にも商機はある。新たな取り組みを応援したい。