危機管理というものは非常に間口が広いため、筆者も本コラムで様々な案件を取り上げるようにしている。しかし、個別の専門分野に関しては、筆者の知識が浅薄であることは自分自身でよく承知しているところだ。今回も、専門外の防衛関係の話なので、あくまで筆者の放談として受け止めていただきたい。

 1950年に警察予備隊として発足した陸上自衛隊は、米軍から供与された中古兵器を装備していた。そこで兵器の更新と国産化が課題とされ、64式小銃の開発を豊和工業に、62式機関銃の開発をN社にそれぞれ依頼した。

国産化を急いだために経験不足のメーカーが開発

 N社はかつて大砲などを製造した旧海軍系の特殊鋼メーカーだが、陸戦用の銃器については試作品を開発した経験しかなかった。そのN社に依頼したのは、銃器メーカーの豊和工業だけでは小銃と機関銃を同時に開発できなかったためだろう。実は、更新用の銃器についても米国製を押しつけられそうになっていて、日本側としては、一刻も早く国産の実績を作りたかったのだ。

 62式機関銃は、日本人の体格に合わせて軽量化を追求するあまり、銃身の肉厚をものすごく薄くしている。連続射撃をする(=銃身の耐久性が要求される)機関銃なのに、なんと64式小銃よりも銃身が細いのだ。機械工学的に見ると、62式機関銃の欠陥の多くは、この細すぎる銃身に由来する。

 銃身の肉厚が薄いと射撃時に銃身が一瞬膨張するため、機関部との結合の間隙を大きく取らざるを得ず、ゆるゆるで銃身が外れやすくなる。さらに、膨張した銃身が元のサイズに収縮する際にカラ薬莢を挟み込むので、それを掻き出す特殊な機構が必要となるが、その機構が故障しやすい上に、射撃時にスライドする振動で命中率が低下するのである。

 この銃身が細すぎる欠点については、開発途中で豊和工業からアドバイスを受けていたが、N社の技術者は自らの設計に固執したという。要するに、軽量化にこだわり過ぎてバランスを失してしまったのであり、煎じ詰めれば、経験不足のN社に開発を任せたのがそもそも間違いだった。

どうして失敗を認められないのか

 それでは、62式機関銃の問題点が現場で露呈した後も、何の改良もなされずに調達が続けられたのはどうしてだろうか。

 実のところ、前述した欠陥を解決するには、部品の交換くらいでは足りず、あらためて設計し直さないといけない。ところが、当時の防衛庁にはそれができない事情があったようだ。組織不祥事のありがちなパターンに当てはめると、以下のように推察できる。

 62式機関銃の調達停止と再開発の予算措置を行うには、その前提として、重大な欠陥が存在することを公式に認める必要がある。「なぜそのような欠陥品を採用したのか」と国会で追及されるのは避けられないが、それにも増して心配なのは、「国産では駄目だ。やっぱり米国製を購入したほうがよい」という流れになって、兵器国産化の方針が覆されることだった。

 そのため防衛庁側では頬かむりを決め込み、そのあたりの空気を察した現場の部隊も口をつぐんだ。かくして、「現場からは特に苦情が上がってこないから、62式機関銃には何の問題もありません」という虚構が作り上げられたわけだ。

 その後、時間の経過とともに兵器の国産化方針は定着したが、「62式機関銃は欠陥品でした」と今さら発表するわけにもいかない。そうなると対策はただ1つ、そのまま隠し通すしかなく、50年にもわたって62式機関銃が使い続けられることになった。

かくして現場にツケが回される

 ようやく90年代になって、自衛隊では、62式機関銃の更新のためにMINIMI機関銃の導入を開始した。ベルギーのFN社(銃器関係の名門企業)が開発したMINIMIは、確かに信頼性の高い優秀な銃であるが、62式機関銃の更新用としては無理がある。

 MINIMIは、62式機関銃の30口径(7.62mm)弾と違って、22口径(5.56mm)弾を使用する。ところが、この22口径弾は重量が小さいために、少し距離が離れると威力がてきめんに落ち、命中率も低下してしまうのだ。そこで、諸外国の軍隊では、MINIMIなどの小口径機関銃は歩兵分隊(10人程度のチーム)の装備として、前進する彼らの後方から30口径機関銃で支援射撃を行うという2段階方式を取っている。

 それなのに自衛隊が62式機関銃をMINIMIで更新したのは、財務省との関係だろう。財務省側が予算削減の目的で「自衛隊はほとんど実弾射撃をしないのだから、まだ62式機関銃も十分に使えるでしょう」と主張したのに対し、防衛庁側では「実は62式機関銃は欠陥品でして・・・」とは言えず、「これからの機関銃は22口径というのが世界の趨勢なので、62式機関銃を更新する必要があります」とでも説明したのだろう。

 このまま更新が進めば、隊員は「キング・オブ・クソ銃」から解放される。しかし、自衛隊が30口径の支援機関銃を持たないことは、有事には恐ろしいハンディキャップとなる。敵軍は、自衛隊のMINIMIの有効射程外から、一方的に銃撃を浴びせることができるからだ。

 ちなみに、2003年から2009年にかけてのイラクPKO派遣部隊は、軽装甲機動車を中心とした編成だったが、搭載していた機関銃はすべてMINIMIであった。こうした車両に据えつける機関銃は30口径あるいはそれ以上が通例で、遠距離射撃ができない22口径機関銃を車載用としたケースは日本以外にない。危地に赴く自衛隊員に対し、あまりにひどい仕打ちではないだろうか。

 論語に「過ちて改めざる、これを過ちと言う」とある。人間のなすことに失敗は避けられないものだが、その失敗を隠そうとしてウソをつくと、いつまでもウソをつき続けないといけなくなる。そして、そのウソを重ねるという行為が、最初の失敗よりもはるかに大きな災厄を招来するのである。