東日本大震災の発生により、今も多くの住民が避難生活を余儀なくされている。特に今回は原発事故が起こったため、近隣の仮設住宅ではなく、遠方各所に避難した事例も多く、いつ戻れるかわからない状況が続いている。こうした住民に、どういう形で被災地発の情報を伝えるのかは、重要な課題である。

 情報を伝える手段には様々あるが、デジタルテレビを使う試みを行っているのが「南相馬チャンネル」である。デジタルテレビは、ハイビジョン映像で復興の様子を大画面に映し出すことができる。またデータ放送を使えば、文字や静止画による情報提供も可能である。事前に結線などしておけば、あとは電源をオンにして、簡単なリモコン操作で必要とする情報にたどり着く。老若男女、だれもが使いやすいツールである。

 南相馬チャンネルは現在、福島県南相馬市内の復興状況や生活情報、毎日の放射線量などを伝える番組を1日24時間、毎日放送している。いわゆるホワイトスペースを使い、南相馬市内の狭い範囲だけで放送する「エリア放送」を2011年7月20日に開始した(関連記事)。フルセグ放送で提供しており、携帯電話機だけでなく、テレビでもハイビジョンで視聴できる。さらに北陸地方に避難している住民に向けてインターネット放送を2011年9月1日に始めた(関連記事)。アクトビラフルに対応するテレビがあれば視聴できる(図1)。

図1●現在の南相馬チャンネルの仕組み(「南相馬チャンネル」北陸地域映像提供実験支援協議会設置の発表資料から)
図1●現在の南相馬チャンネルの仕組み(「南相馬チャンネル」北陸地域映像提供実験支援協議会設置の発表資料から)
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故郷に帰ってきてもらいたい

 この南相馬チャンネルに対する地元自治体の期待は大きい。南相馬市総務企画部情報政策課の佐藤祐一課長によると、「震災の復興の状況を市民に伝えたい。テレビを使い、文字と映像で伝えられることには大きな意味がある」と説明する。

 例えば仮設住宅に住む住民の間では、高齢化が進んでいるという。このため、自ら被災地の現場に足を運び、自分の目で状況を見ることが難しい方が多い。テレビで、映像を使って復興の様子を伝えられる意義は大きいという。

 さらに、遠隔地に避難された住民に、復興の状況をテレビで伝えられることも大きいという。南相馬市の震災前の人口は約7万1000人。それが震災直後には1万人に減り、文字通り誰もいない町ができてしまった。その後、緊急避難準備区域が解除され、多くの市民が戻ってきたが、それでも1月19日時点で約2万6000人が市外に避難している状況である。現在は、月2回、復興状況に関する紙ベースの資料を、遠隔地に避難された住民に送っている。しかし、南相馬チャンネルにつながれば、映像と音声で情報を伝えられる。