メーカーではない企業が、コンピュータを作り始めている。サーバーコンピュータの分野では、2007年頃から顕在化している動きだ。それが今、クライアントコンピュータの分野にも広がり始めた。自分に必要なIT端末を、自らの手で生み出そうとする企業が増えているのだ。

 メーカーではない企業がサーバーコンピュータを自作する動きは、ITproでも何回か紹介したことがある。先頭を走っているのは米グーグル(関連記事:グーグルは“異形”のメーカー)で、米フェイスブックも追従している(関連記事:Facebook、「Open Compute Project」推進組織を結成、IntelやRed Hatなど参加)。消費電力効率の良いサーバーハードウエアをユーザー企業が自らが設計し、台湾メーカーなどに製造を委託しているのだ。

 このような動きが、サーバーに続いてクライアントコンピュータの分野でも起き始めている。しかも作る対象は「パソコン」ではない。自社に必要なスマートフォンやタブレットを作ろうとする動きが、日本や世界で起き始めているのだ。

 記者は、日経コンピュータ2012年1月19日号の特集「到来、ポストPC時代」の取材をするなかで、この「自社に必要な端末を、自らの手で生み出す」という動きを知った。同特集は、企業情報システムの中でスマートフォンやタブレットといった「ポストPC」世代の端末の重要性が増している現状をレポートしたものだ。その取材先の中に、スマートフォンを自社開発している流通業があったのだ。ディスカウントストア「トライアル」を全国展開するトライアルカンパニーである。

台湾メーカーに自社専用スマホを発注

写真1●トライアルカンパニーが店舗の従業員用に自社開発したスマートフォン「PACER端末」
写真1●トライアルカンパニーが店舗の従業員用に自社開発したスマートフォン「PACER端末」
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 トライアルは、店舗の従業員が常時携帯するスマートフォン「PACER端末」(写真1)を、自社開発した。メーカー製のスマートフォンを携帯電話会社から調達するのではなく、トライアルが台湾メーカーと直接交渉して、自社専用のAndroidスマートフォンを作った。商品などのバーコードを読み取る赤外線方式バーコードリーダーや、20時間以上の連続稼働ができる大容量バッテリーなどを搭載するところが、市販品には無いPACER端末ならではの特徴だ。

 トライアルのPACER端末は「情報端末」「業務端末」「カメラ」「音声端末」という4つの役割を備えている。従業員は、PACER端末を使って電子メールやグループウエアを利用する。これが情報端末としての役割だ。PACER端末を使って商品のバーコードなどを読み取ると、本社の商品管理システムに問い合わせて、その商品の在庫量を確認したり、追加発注したりできる。これが業務端末としての役割だ。

 従業員が利用するPACER端末には時折、店のマネージャーや本部のスーパーバイザー(SV)から、作業指示の電子メールが届く。従業員は指示に従って商品陳列などを行い、作業結果をPACER端末内蔵のカメラで撮影してマネージャーやSVに返信する。PACER端末のカメラがあることで、マネージャーやSVはその場に行かなくても、店頭の様子を確認できるようになった。

 PACER端末はVoIP(Voice over IP)ソフトを備えており、無線LAN経由で内線電話が利用できる。また、館内放送システムとも接続しており、館内向けのアナウンスをPACER端末のマイクから発することができる。PACER端末から携帯電話網に接続することはできないが、音声端末として十分に活用されている。