日本マイクロソフトのクラウド戦略が見えてきた。まずクラウド基盤上で稼働するミッションクリティカルなシステム事例を増やす作戦を展開する。自力でも大手顧客を開拓する体制作りをしてきたのは、そのためだ。

 クラウドは、多くのパッケージソフト会社に収益構造の転換を迫っている。ライセンス販売と保守契約料による収益が減少傾向にあり、新規顧客の開拓もだんだん難しくなってきた。そんな中で、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)などクラウドサービス化を検討するソフト会社が増えているが、サービス型ビジネスへの切り替えには乗り越えるべきいくつかの壁がある。

 例えば、ネットワークや仮想サーバーをはじめとするクラウド技術力を蓄えたり、サービスの機能強化を図ったりする過程で開発費が増加する。同時に、一時的とはいえ収入が減少する。これらに対応する人材と資金を確保しなければならない。また、直販を増やすなど販売施策の見直しも求められるので、サービス化への移行をためらうソフト会社が少なくない。参入しても、初期費用を設定したり、月額使用料を高くしたりするソフト会社もある。

「ソフトウエア+サービス」から「ハイブリッド」へ

 日本マイクロソフトもWindows Liveなどのサービスを提供し始めた当初は「ソフトウエア+サービス」と提唱し、両者を組み合わせた利用形態を示した。だが、コラボレーション基盤のOffice365、クラウド基盤のWindows Azure、業種アプリケーション基盤のDynamics CRMといったクラウドサービスがそろってきた頃から、オンプレミスとクラウドサービスを効率的に使い分ける「ハイブリッド」というメッセージを出し始めた。

 日本マイクロソフトの樋口泰行社長は2011年7月の2012年度経営方針説明会で、「当社のクラウド製品やサービスに対するイメージは向上している。今年度はさらに加速させる」と、クラウド事業を強化する方針を明らかにしている。

 具体策の一つは、エンタープライズサービス部門による顧客開拓である。ユーザーと直接、コミュニケーションしなければ問題を把握できないし、効果的なクラウドサービスの活用を提案できないからだ。そのためエンタープライズ部門には、企業システムの提案・構築経験を積んだ、日本IBMなどのITベンダーの出身者が多くいる。

クラウドを提案・実装する人材をどれだけそろえられるか

 ミッションクリティカルなシステムの事例には、2011年12月に発表した日産自動車の次世代ディーラーマネジメントシステムや、日本交通の全国タクシー配車サービスなどがある。AzureとDynamics CRMを利用して構築する日産のディーラーマネジメントシステムは、プライベートクラウドとパブリッククラウドを効率的に組み合わせた利用形態を目指している。共同開発するサービス機能の一部を販売する予定もある。

 Azureで展開する日本交通の全国タクシー配車サービスは、2011年1月にサービスを開始した同社のタクシー配車システムを全国各地のタクシー会社が利用できるようAzure上に乗せたもの。日本交通の川鍋一朗社長はタクシー配車システムを全国展開する際、「社内の技術者だけで、社内のサーバーだけで大丈夫なのか」と心配し、実績のあったAzureを使うことを決めたという。日本マイクロソフトは技術面からの支援もした。

 問題は、日本マイクロソフトがクラウドを活用したミッションクリティカルなシステムをどこまで増やせるかにある。「ユーザーの問題を解決する提案と、クラウドサービスを実装する人材をどのくらいそろえられるのか」と言い換えてもよい。1000社を超すクラウド関連のパートナー企業がそれを先行事例として生かし、販売活動に本腰を入れてくれれば、事例はさらに増える。そう読んでいるように思える。