ソフトバンクグループがNTT東西を相手取り、光回線の貸し出し方法の改善を提起した訴訟の弁論準備が2月に予定されている。ソフトバンクグループが単独で他社を相手に訴訟に臨むのは創業以来、初めてのことだ。

 2010年には「光の道」の実現を旗印に、光回線の貸し出し条件の緩和をすべき、という主張を同社が繰り広げたことを覚えている読者も多いだろう。それが実現しなかった経緯もあり、今回の裁判にかける同社の意気込みはかなりのものだ。

 裁判の結果が出るまでには、しばらく時間がかかりそうだ。一方、今回の訴訟で、ユーザーにとってもメリットがある両社の協業の可能性が閉ざされた、ということを、筆者はある関係者から聞いた。「この訴訟が提起される直前まで両社は、フレッツ光とiPhoneをセットにした販促キャンペーンを共同展開する検討を進めていた」というのだ。だが、今回の訴訟で「協業は破談になってしまった」(関係者)という。

補完関係が成立するNTT東西とソフトバンクグループ

 業界内では犬猿の仲とされるNTTグループとソフトバンクグループが、新規ユーザー開拓で協業するというのは、にわかには信じがたい話だ。だが冷静に考えれば、固定通信サービスしか取り扱えないNTT東西と、純増を確保しながらも無線インフラのキャパシティーに不安を抱えるソフトバンクグループとが互いに補完し合うのは理にかなっている。

 ソフトバンクモバイルからすれば、iPhoneのトラフィックを、できるだけ自社の3G回線以外のインフラに逃がすことは喫緊の課題。そこでフレッツ光とセットで販売し、「自宅でiPhoneを使うときには、無線LAN経由で光回線を使う」ことをユーザーに勧めることで、自社の3Gインフラの負荷を軽減できる。その上、自宅ではユーザーに快適にiPhoneを使ってもらえる。

 最近では屋外でも、NTT東西のインフラを活用できる可能性が広がっている。NTT東西の公衆無線LANサービス、フレッツ・スポットはセブン&アイホールディングスとの提携などによって、ソフトバンクグループがまだ進出できていないエリアにも拡大しているからだ。フレッツ光ユーザー向けに割安に提供しているフレッツ・スポットをiPhoneユーザーに使ってもらうことで、屋外のトラフィック対策も強化できる可能性があった。

iPhoneを自宅固定電話の子機にできる

 一方、NTT東西からするとiPhoneの純増ペースの勢いを、伸び悩んでいるフレッツ光回線の販売にもつなげられる利点があった。単純に回線をセット販売するだけでなく、iPhoneをひかり電話の子機として使える「スマホdeひかり電話」といった、FMC(固定と移動の融合)サービスを提供できるようになる。自宅に固定電話機があっても、電話帳が便利な携帯電話を使って発信するというシーンはよくあること。そういう場面でiPhoneをひかり電話ルーターに接続していれば、割安な固定電話の料金で通話ができる。自宅の中の電話機をiPhoneに統一してしまう、といったことも可能だ。

 NTT東西にとっても、ブロードバンドを活用する端末がパソコンだけではなくなっており、このようにスマートフォンと光回線を組み合わせた利用シーンを開拓することは重要な課題になっている。

 NTTグループとしても、もはやNTTドコモ以外の事業者と協業することはタブーではなくなっている。実際、NTT東日本では「フレッツ光モバイルパック」と称して、イー・モバイルのデータ通信回線や、インターネット接続事業者(ISP)のMVNO(仮想移動体通信事業者)サービスをセットで販売している。ソフトバンクモバイルとの協業も十分に可能だったはずだ。

 セット販売が実際に可能かどうかという点では、米アップルが自社製品と他社サービスを組み合わせることに難色を示す可能性はあったかもしれない。ただ、ともかく協業は、NTT東西とソフトバンク双方にメリットがあったはずだ。それだけでなく、ユーザーにとっても利便性が向上する可能性があっただけに、筆者としては「法廷で殴り合っている相手とは協力できない」という論理で、協業が棚上げになってしまったのは残念である。

 ただ、2012年もスマートフォンが通信サービス市場の需要をけん引することは間違いない。引き続き、急増するスマートフォンのトラフィックを固定回線などにオフロードする対策が移動通信事業者にとって重要な課題になる。協業の検討を再開する可能性はゼロではないと期待したい。