私は生来のあまのじゃくなので、他人が褒めているものをめったに褒めないが、やはりアップルやスティーブ・ジョブズはさすがだと思う。もちろん、今さらiPhoneやiPadがすごいと言うつもりはない。感心してしまうのは、Macintoshのビジネスに干渉することなく、スマートフォンやタブレット端末のビジネスを創出したことである。

 スマートフォンやタブレット端末がいくら普及しても、PCが無くなることはあり得ない。ただし、PCのビジネスモデルは瓦解する。これは以前、「iPadでフル機能のOfficeが使える日も近い?」で書いた話だ。改めて説明すると、次のようになる。

 クラウド、つまりサーバーサイドに多くの情報やアプリケーションが集約される時代になり、PCの重要性は急激に低下した。結果として、PCという“オーバースペックな端末”は要らないという人が増え、スマートフォンやタブレット端末といった、クラウド活用に特化した“簡易な端末”が登場した。

 もちろん、情報を創り出す用途ではPCは最適のツールなので、PCへのニーズが無くなるわけではない。ただし、情報を創り出すのではなく、情報を何かのために活用したい多くの消費者やビジネスパーソンにとっては、情報活用に最適化したスマートフォンやタブレット端末のほうが使い勝手が良い。たまに情報を創り出す必要があっても、スマートフォンなどで事足りてしまう。

 そんなわけで、PCは「情報をクリエートするための道具」という栄光ある地位を維持するが、PCメーカーの未来は厳しい。なんせPCはコモディティー(汎用品)の代表格で、そのビジネスは大量生産が前提だ。一部の用途、一部の人にしかPCが要らなくなれば、市場はシュリンクし、そのビジネスモデルは瓦解する。

 PCメーカーが従来のビジネスモデルのまま生き残ろうと思えば、ひたすら新たな買い手を求めるしかない。つまり、アジアや南米の新興国はもちろん、アフリカなどにも市場を求めていくしかない。それは無理、あるいは収益性の観点から無意味と判断するならば、早いうちに自前の事業に見切りをつけたほうがよい。

 その意味で、自前のPC事業を諦めない富士通は、世界の辺境にまでPCを売り歩く覚悟だろう。一方、中国レノボ・グループにPC事業を統合したNECについては、世界で戦うことをレノボに任せ、自分たちは部品の共同調達で規模のメリットによるコスト削減を実現できたわけだから、これはこれで正しい戦略だった。

 さてアップルだが、こうした他のPCメーカーの苦労から縁遠い場所にいる。なんせMacintoshは「情報をクリエートするための道具」としてブランドを確立しており、以前からコモディティー戦争に明け暮れるWindowsの世界と一線を画している。スマートフォンやタブレット端末が主流の時代になっても、顧客がそのブランド価値を認めて買ってくれるだろうから、MacintoshとiPadなどがカニバリを起こす心配はあまりない。

 おそらくジョブズをはじめとするアップルの幹部は、そのことを読み切っていたのだろう。だから、大したものだと思う。もちろん、自らつくり出したスマートフォンやタブレット端末の市場が爆発的に拡大すれば、Macintoshのビジネスの再検討も必要になってくるかもしれない。だが、それでも他のPCメーカーに比べれば、はるかに事業戦略を組み立てやすいだろう。

 要はブランド力。やはり“尖った”製品やサービスがあれば、市場をコントロールできるということだ。だから日本のメーカーも、人様の真似ばかりしていないで、全く新しい製品、尖ったサービスづくりに、もう一度チャレンジしてみてはどうか。これからは、スマートフォンやタブレット端末だけでなく、多様な端末が多数登場するだろう。オリジナリティで世界を制する日本発の製品もぜひ見てみたい。

 こう書くと、「オリジナリティが一番の弱点で・・・」という声が聞こえてきそうだ。ただ、ほんの十数年前まで「創造性に乏しい」と自他共に認めていた日本人は、今や「世界で最も創造性に富んだ人々」として世界で認知されるようになった。だからIT業界も、そろそろ自虐的な発想を止め、新しいビジネス創りに挑戦してほしい。そうでないと、これからも“クリエーティブな”外国企業の戦略に振り回されて、右往左往し続けなければならなくなる。

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