今回からしばらく、「技術」「ビジネス」「コミュニティ」のちょっと外側の話を続けて行きたいと思います。今回は少し前に「何をオープンソースにしないかを語る人は少ない」というtweetを見掛けたので、その辺を考えてみようと思います。

最近のFLOSSの浸透

 前回の最初でもチラと書きましたが、最近のFLOSS(Free/Libre and Open Source Software)の浸透具合はすさまじいものがあります(※ただしクライアントをのぞく)。クライアント側ばかりを見ていると気がつきませんが、サーバー側では主要なものはむしろFLOSSが中心なのではないかと思うくらいです。

 例えばCMS(Content Management System)を見てみましょう。CMSには著名なFLOSSがたくさんあります。それも、「ある」と言うだけではなく、あたかもそれが当たり前かのように使われています。ちょっと前までFLOSSと言えば、ドキュメントやサポートの不足が言われていました。そういった不足は、ドキュメントを探したりソースを読んだりと、利用者自身が頑張らなければならないという点で、ちょっと不安だったものです。ところが、FLOSSなCMSのドキュメントに関して言えば、ネット上の文書だけではなく、書籍として販売されているものも多数あります。CMSの利用者用文書に関しては、むしろプロプライエタリなものの方が、情報収集に苦労するくらいです。

 これはCMSに限りません。Wikiやブログエンジン、ECやSNSと言った、いわゆる「ネットサービス」に関しては、むしろFLOSSの方が幅を効かせていると言ってもいいでしょう。ちょっと前までは、サーバーがWindowsだと、こういったソフトウエアもプロプライエタリなものを使うものでしたが、最近ではコミュニティ的な頑張りだけではなく、マイクロソフトもかなり頑張ったこともあって、UNIX系OSと大差ない(むしろ少ないくらい)の手間で使うことができるようになりました。

 もちろんネットサービスのアプリケーションにも、プロプライエタリなものは多数ありますし、それらが使いものにならないということはありません。むしろ、FLOSSがそれだけ強い分、なかなかに力の入ったものがあります。それでも、多くの場面でFLOSSが活用されていることは誰もが納得できるレベルでしょう。

 レンタルサーバーやクラウドサービスでは、最初からネットサービス系のアプリケーションがインストールされているディスクイメージがあったり、簡単な操作でインストールできるようになっていたりもします。また、ハードウエアの進歩もあって、こういったものであっても中小の企業では十分使いものになっていたりするので、下手にプロプライエタリなものを使うのは、余分に手間や費用がかかってしまうといったこともあります。

 似たことが、分散KVSとか分散処理ミドルウェア、クラウドコントロールと言った分野にもあります。この分野でも、「FLOSSが普通」といった空気があります。商用のものであっても、基本部分はFLOSSで公開されているといったことも少なくありません。

 このように、最近では様々な分野で、FLOSSの方が主流といった感じになっています。

最近のFLOSSへのコミットの動き

 このように、様々な場面でFLOSSがよく使われるようになった結果、FLOSSへのコミットも増えています。特に日本のネットサービス系の企業からは、「こぞって」という表現が当てはまるくらい、プロダクトのFLOSS化やコミュニティへの参加されるようになりました。国内大手のネットサービスの会社は、大抵FLOSSのプロダクトを出してると言っても過言ではありません。これは日本に限ったことでもなく、海外の著名なネットサービスの会社は、大抵コンポーネントの一部をFLOSSとして公開しています。正確に言うと、この動きは海外が先でした。それが日本でも珍しくなくなったということです。

 これはネットサービス系の会社はソフトウエアを販売することが目的でないということや、本当の稼ぎ頭のソフトウエアだけをプロプライエタリにしておけば良いとか、様々な理由があります。一説によれは、「FLOSSへのコミット」ということが、優秀な技術者を集めるのに有効だと思われているという話もあります。

 実際、FLOSSの技術者はFLOSSの作れる環境を求めるものですし、FLOSSの技術者は技術もモチベーションも高いので、企業にとっても「優秀な人材」と見做せるということが浸透して来たこともあるでしょう。また、最近は大規模分散の「腕試し」ができる環境としてのネットサービスという見方をする技術者もいます。ネットサービス系の企業がFLOSSをやるということは、そういった人材獲得といった意味でも都合が良いと考えられているわけです。

 またこの他に「勉強会」の会場としてオフィスや設備の一部を貸し出すとか、「ハッカソン」の主催をするとかといった形でコミットするところも増えて来ました。それぞれの企業にはそれぞれの事情があると思いますが、おそらくは「メリットがある」と思っているからやっているのだと思います。そうでなければ、する必要はないのですから。

 このように、様々な形でFLOSSにコミットすることが流行るようになりました。