この連載では、「ダメに見せないことで評価を高める」ための仕事術を扱っている。前回(「説得力のない人」とは付き合うな)は、ネガティブ特性の八つめである「説得力がない、納得感は得られない」について、説得力がない人とは付き合っていけない理由を説明した。ネガティブ特性は以下の通りである。

  1. 先を読まない、深読みしない、刹那主義
  2. 主体性がない、受け身である
  3. うっかりが多い、思慮が浅い
  4. 無責任、逃げ腰体質
  5. 本質が語れない、理解が浅い
  6. ひと言で語れない、話が冗長
  7. 抽象的、具体性がない、表面的
  8. 説得力がない、納得感が得られない
  9. 仕事が進まない、放置体質
  10. 言いたいことが不明、論点が絞れない、話が拡散
  11. 駆け引きできない、せっかち、期を待てない

 前回は「システム開発部門と利用部門が対立し、その調整を命じた部下の奥田が双方を説得できず、プロジェクトが進まなくなった状況」を説明した。今回はその続きである。「説得力がない、納得感が得られない」というネガティブ特性の矯正方法を、今回の事例を基に説明する。

説得力を身に付けずにいる方が問題

 前回のエピソードをおさらいしておこう。筆者の勤務していた企業では、情報システム部門にプロジェクトマネジメント部門を設置し、システム開発プロジェクト全体をマネジメントしていた。筆者の部下で当時、入社15年目の社員だった奥田と筆者は共にこの部門に所属しており、「利用部門と開発部門(別会社)の利害を見ながら第三者の立場で両者を説得し、プロジェクトを正常化させる」というミッションを与えられていた。

 ところが奥田は開発部門から異動してきたばかりで、まだ自分のミッションを十分理解していない状況だった。「他部門との調整は自分の仕事である」と自覚していなかったのだ。

 「どうしても相手を説得しなければならない」という強い気持ちを持っていれば、あとはスキルの問題である。OJTでスキルを習得できるよう、粛々と教えていけばよい。しかし、奥田にはその気持ちが欠けていた。「説得しないと大きな問題になる」とは考えずに、「最後は上司が何とかしてくれるだろう」「自分はどうすることもできない」という認識を持っていた。

 上司である筆者は、あえて厳しい態度をとり、「考えるのは君だ」と奥田を突き放した。

 前回の記事には、大きな反響があった。その中で「奥田氏への態度は厳しすぎる」「突き放して追い込むという姿勢には、問題があるのではないか」といったご意見をいただいた。

 筆者は、「説得力を身に付けないままでいることの方が、よほど問題である」と考えている。人は仕事の経験を重ねるにつれて、いわゆる調整能力がより必要になる。ここでいう調整能力とは、ネゴシエーション、他人に対する説得、自分の考えを通すといったことを指す。

 プロジェクトでは組織同士、あるいは人間同士の対立が発生するのが常だ。調整能力に欠けていると、対立した組織や人に挟まって困窮し、能力不足と評価されてしまう。結果的にリーダー人材、マネジメント人材になれず、自分自身のキャリアに関する選択肢が狭められる。

 人はできるだけ多くの可能性を持っているのが望ましい。だからこそ、できるだけ早く「人を説得できる力」を習得するのが本人のためであると、筆者は考えている。

 前回に限らず、この連載ではしばしば「厳しすぎる」「そこまでやるのは上司として問題ではないのか」といった意見をいただく。それは、筆者があえて「厳しい現実」を再現していることも一因だろう。

 筆者は「実際の現場で見ている臨場感を、読み手に味わっていただく」ことを記事での信条としている。このため、「実務上で発生する人間同士の対立や葛藤、解決、成長などを可能な限り、現実のまま再現する」という「場面再現」と「会話型コラム」の手法をあえて採っている。この点をご理解いただき、今後も連載を読み進めていただければ幸いである。