2001年2月、ハワイのオアフ島沖で、宇和島水産高校の練習船「えひめ丸」が、米海軍の潜水艦に衝突されて沈没し、生徒4人を含む9人が死亡した。この事件の際に、ゴルフ場でその第1報を知らされた森総理がそのままゴルフを続けたことが問題視され、「危機管理の責任者として落第だ」との大合唱が巻き起こった。

 この世論に対して、筆者は違和感を禁じ得なかった。森総理がゴルフを続けたことが、政治的パフォーマンスの面から批判されるのならばともかく、どうして危機管理の失敗になるのだろうか。

えひめ丸沈没事件は事務方で対応できた

 状況から考えて、純然たる事故であることは明らかで、事態がさらにエスカレートする恐れはない。事故の当事者は米軍だが、日米安保の問題と結びつくような話でもない(日本国内で在日米軍の起こした事故ならば別であるが)。従って、本件の危機管理の性質は、あくまでも事故処理である。具体的には、遭難者の救出作業を進めることと、生存者の帰国の手配をすることの2点を考えればよい。

 このうち前者については、現場が遠く離れたハワイ沖なので、日本側が自らやれることはない。米国に迅速な救出を要請する作業は、外務省の事務方にやらせておけば十分である。米国は某近隣諸国と違って非常識な相手ではないので、政治家が外交交渉に乗り出さなくても話はスムーズに進む。後者の帰国手配も単なる事務処理の話であって、総理が決断するまでもない。

 つまり、このタイプの危機管理には、トップのリーダーシップは必要とされず、内閣安全保障室や外務省の事務方で淡々と対応すればよい。逆に言えば、この程度のことまで総理の指示をいちいち仰がなければいけないようでは、それこそ国家としての危機管理体制がなっていない。

 以上のように、本事件の危機管理に関して森総理の行動に特段の問題があったとは考えにくい。それなのに批判が殺到した理由としては、危機管理に関して世間に誤ったイメージが流布していることが挙げられるだろう。