ひかりTVもばいる、TSUTAYA TV、スカパー!オンデマンド、ビデオストア、Hulu、NHKオンデマンド、GyaO、BeeTVなど、スマートフォンやタブレット端末で見られる動画配信サービスが増えてきた。通勤電車の中で週に2~3本のドラマや映画を日常的にスマホで視聴している記者にとっては、選択肢が広がってうれしい限りだ。

 しかし、先行するテレビ向けやパソコン向けの動画配信と比べて配信する作品数が少なかったり、スマホならではの機能や利用スタイルの提案が見られないなど、最近のスマホ/タブレット端末ブームを持ってしても広く受け入れられるサービスに育つにはまだ時間がかかりそうだ。

配信作品数がもの足りない理由

 スマホ/タブレット端末向け動画配信サービスを触って、まず不満に思うのが「テレビ向けサービスと比べて、配信作品数がもの足りない」ということだろう。例えばひかりTVの場合、テレビ向け配信では2万作品以上(月額固定料金の見放題メニューは6000作品)であるのに対して、スマホ/タブレット向けのひかりTVもばいる(月額定額制)で提供している二つの見放題メニューで見られる作品は、数100作品と数1000作品にとどまる。またTSUTAYA TVもテレビ向けには2万4000作品以上配信しているが、モバイル向けには6400作品(2011年内に1万作品提供予定)となっている。

 サービス内の複数メニューのうちの一つとしてスマホ/タブレット端末向け動画配信を手がけるある事業者は、「動画配信単体で収益を出すのはまだ難しい」と漏らす。一般的に作品の調達コストは、最低限必要な「ミニマムギャランティー」とコンテンツの売り上げに比例する「レベニューシェア」を合計したものになる。コンテンツが一定数売れて、ミニマムギャランティーを回収できて初めて、配信事業者に利益が出るしくみだ。

 しかし動画配信の市場が小さい現状では、人気作品であってもこのミニマムギャランティーを回収するのが難しい。サービスが利用されてもされなくても、作品数を増やせばミニマムギャランティー分のコストが増加するため、闇雲に作品数を増やせないという事情がある。

発展途上のモバイル動画配信

 実際にサービスを利用してみると、今度は使い勝手の面での課題に気がつく。現在、モバイル端末向け動画配信サービスの多くは、ストリーミング(逐次配信)方式を採用している。ストリーミング方式では動画データ全体を端末側に溜め込まないので、不正コピーされる心配が少ない。また、動画データ全体を事前にダウンロードする必要がないので、端末のメモリー容量が少なくてよく、視聴手続き後すぐに作品を見られるメリットがある。

 一方でストリーミング方式の欠点は、ユーザーが動画を視聴し続けるには通信回線が常時つながっている必要がある点だ。多くのストリーミング方式によるサービスでは動画データの一部が端末側のバッファーに蓄積されるので、瞬間的に通信が途切れても映像再生に問題は起きない。しかし、地下鉄の駅間移動のように通信が数分間途切れる場合は、再生映像も途切れてしまい、快適に視聴できない。

 端末に動画データを蓄積するダウンロード型のサービスでは、端末側にデータ保存用のメモリー容量が必要となる半面、通信回線の状態に影響を受けずに動画を視聴できる。ただしダウンロード型のサービスはAppleのiTunesやTSUTAYA.comのTSUTAYA TVなど、一部に限られている。ストリーミングもダウンロードもそれぞれメリット/デメリットがあって優劣はつけづらい。どちらか一方の方式だけというのではなく、利用スタイルに合わせてユーザーが選択できればよいだろう。