国家資格で12種類ある「情報処理技術者試験」、「ITコーディネータ」など様々な民間団体が認定する資格、OSやデータベースなどIT製品のベンダーが設けた独自の認定資格――。このようにIT関連の資格は増える一方だ。

 日経コンピュータでは、ユーザー企業とITベンダーの双方の関係者に協力を頂いたアンケート結果から、資格の需要や人気動向をランキングで集計した調査企画「いる資格、いらない資格」を、今年も実施した。日経ソリューションビジネス(2009年12月に休刊)で毎年実施した人気企画を引き継ぎ、対象をITベンダー社員からユーザー企業のシステム部員にも広げたものだ。

 今年の調査結果を見ると、「情報処理技術者試験では、スペシャリスト系資格の需要が昨年から高まった」「Javaなど開発分野の資格の人気が大幅アップ」など、いくつか興味深い結果が見られた。一部は本稿の後半でかいつまんで紹介したい(詳細は日経コンピュータの2011年12月8日号に掲載)。

 一方で、そもそも「IT資格の取得と、仕事の能力はあまり関係がない」「必要なスキルは、職場でのトレーニングや仕事を通じてでも身に付けられる」といった意見があるのも事実だ。実際に今回のアンケートでも、こうした点を指摘する自由意見がいくつか寄せられた。また「ITベンダーの技術者やSE営業職はまだしも、ユーザー企業の情報システム部門のスタッフが、資格取得に大きな時間を費やす必要があるのか」という声も聞かれた。

社員の反発を抑え、取得資格を3倍増に

 記者はこの点に関し、「情報システム部門を強化したいなら、資格は有効な道具立てになる」と考えている。特集と並行した企業への取材などで、こう実感させるエピソードに幾つか出会った。共通するのは「資格は、システム部員のスキルを見える化できる優れたツール」という点だ。

 スキルが見える化できれば、システム部門で人材が足りていないスキル分野を強化したり、システム部員がお互いのスキルを組み合わせてうまく協働できる仕組みを作る基盤になる。一方、資格を取得するシステム部員にとっても、ステップアップの目標を立てる指針になる。実際に旺盛に資格を取得した人に聞くと、仕事やトレーニングで得たスキルを、整理するのに役立つメリットもあるという。

 システム部門の強化に関して、ソフトバンクグループは資格に着目して取り組んでいる1社だ。強化に着手したのは2008年10月で、ソフトバンクモバイル、ソフトバンクテレコム、ソフトバンクBBの通信系3社の情報システム部門が対象だ。

 2006年のボーダーフォン買収を機に、ソフトバンクグループは通信系3社の情報システム部門の機能を共通化し、人材交流を活発にする、部門の実質的な統合化を進めてきた。その一方で浮上したのが、システムの開発力やITベンダーの管理能力の低さだった。システム部門に、ITベンダー依存体質が染み付き、基幹系システムやシステム運用などコア業務のノウハウが社員にない。システムトラブルの収束がITベンダー任せになるなど、その弊害が目立っていた。

 ソフトバンクモバイルの阿多親市専務兼CISO(情報セキュリティ最高責任者)の監督の下、改革を現場で指揮した1人が同社IT企画管理本部長の清水啓一朗氏だ。清水氏は改革の期間を18カ月に設定。社員のプロフェッショナル化を図るため、社内に専門分野に通じた「職種」を新たに設けることにした。