企業における情報システム担当役員といえば、CIO(最高情報責任者)であるのが一般的だ。ところが最近、金融業や小売業が、メーカーのようにCTO(最高技術責任者)を置き、CTOが情報システムを統括するケースが増えている。なぜCIOではなくCTOなのか。「名は体を表す」という言葉の通り、そこには明確な意図があった。

 なぜCTOなのか――。その理由はCTO本人に聞くのがよいと考え、記者は3人のCTOにインタビューをした。荘内銀行と北都銀行の持ち株会社、フィデアホールディングス(HD)のCTOである吉本和彦氏、米アマゾン・ドット・コムのCTOであるヴァーナー・ボーガス氏、住信SBIネット銀行のCTOである木村紀義氏、である。インタビュー本編は、「日経コンピュータ」10月27日号の特集「ITでビジネスを創出する、我らは『CTO』」にまとめたので、本記事ではそのエッセンスをお伝えしたい。

ECサイトやソーシャルメディアの活用も「技術」

 元々CTOとは、メーカーにおけるR&D(研究開発)や製造部門の技術責任者を指す。メーカーが世に出す製品には、独自の技術が欠かせない。その技術の開発を統括するのが、メーカーのCTOのミッションだ。

 メーカーと同じように、今やあらゆる企業において、技術、特にITの活用なくして、どんな新規事業も実現できない時代となった。そこで、「ITを活用して、新しいビジネスを生み出す」ことに責任を負うようになったのが、メーカー以外の企業に誕生したCTOである。

 例えば、フィデアHDの吉本氏は、「どうすれば東北地方の中小企業が中国の電子商取引(EC)サイトで成功できるのか。ソーシャルメディアを銀行のマーケティングに活用できるのか。銀行のCTOとして、ITを活用して新しいビジネスを生み出す策を、日々考えている」と語る。吉本氏は、ECサイトやソーシャルメディアに関する知識やノウハウも、企業にとって重要な「技術」であると考えている。

 しかし、これまでのCIOの役割は、「ITによるバックオフィス業務の改善・改革」や「情報システムの維持・開発」にとどまっていた。今、企業にとって重要度が増している技術とは、マーケティングや商品企画といった「稼ぐ部門」が必要とする技術である。残念なことに、このような技術に疎いCIOは少なくない。そこで吉本氏は、「銀行が新しいビジネスを開拓するためには、既存システムの維持という伝統的なCIOの枠を超える必要がある」との思いを込めて、CTOという肩書きを選んだ。

CTOの役割は「Big Think(大局的な思考)」

 アマゾンのCTOであるボーガス氏は、CTOの役割を「Big Think(大局的な思考)」と説明する。Big Thinkとは、「アマゾンのビジネスにイノベーションをもたらすために、どのような技術を開発しなければならないのか。その技術を使って、どのような新規ビジネスが可能なのかを、大所高所に立って考えること」(ボーガス氏)だという。一方、同氏によれば、「米国ではCIOというと、電子メールなどの社内システムやITインフラの運用管理責任者というイメージがある」という。

 CTOは、技術に対して責任を追う役職である。住信SBIネット銀行の木村CTOは、「経営トップの要望に対して『できない』と言わない」ことを信条とするCTOだ。「経営トップの要望をITベンダーに丸投げして、『ベンダーができないと言っているからできません』と報告するようでは、その責任者に存在価値はない」と考えているからだ。どのような技術を駆使すれば、経営トップの要望を実現できるのか。考え、決断するのがCTOの責務だという。

 今、情報システムに関わる人々の「肩書き」が、色んな場所で変わり始めている。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)大手の米フェイスブックでは、同社が集める大量のデータの中から、有益なパターン(傾向や特徴)を見つけ出し、製品やサービスの改良を図る技術職のことを「データサイエンティスト」と呼んでいる。統計学の専門家であるデータサイエンティストが、「ビッグデータ」の活用には欠かせないという。

 これら肩書きの変化は、企業が改めて技術や科学を重視し始めたという、社会の変化を象徴しているのではないだろうか。情報システム部門にとって求められる役割が何なのか、改めて考えてみる必要がありそうだ。