スマートシティを構築するプロジェクトが世界各地で始動している。先進国では少子高齢化や社会インフラの老朽化といった課題を、発展途上国では逆に都市部の人口増加や環境負荷の小さい社会インフラの実現といった課題を解決するのが目的だ。日本でも、東日本大震災以後、都市の復興や再生可能エネルギーの導入といった課題が急浮上し、スマートシティの考え方への関心が高まってきた。

“スマート”の実現にICTは不可欠

 都市の課題が多種・多様であるように、世界のスマートシティプロジェクトでも、その目指すところは様々だ。だが、都市の持続的な運営に向けた社会的コストを削減するためにICTを活用することは共通している。電気や水道といったエネルギーや交通、防犯・防災など都市の活動をセンシングし、そこで得られた大量データを分析することで、社会インフラに潜む各種のムダをあぶり出し最適化を図る。

 企業情報システムを構築・運用してきたICT技術者に近い言葉で言えば、ERP(統合基幹業務システム)を都市に適用するようなものだ。ERPでは、取引や生産状況を細かく一元管理することで、「ヒト・モノ・カネ」といった企業が持つ資源を最適活用することを目指す。都市におけるヒトの行動やモノの活動を把握できれば、最適解が導き出せるということだ。

 逆に言えば、ICTによって都市の活動がどれだけ把握できるのか、集めたデータをどう管理・分析できるかによって、これからの都市の“スマートさ”が変わってくることになる。それほどICTと、その専門家であるICT技術者が果たすべき役割は大きいと言える。

 しかし、こと日本市場においては、スマートシティの実現においてICT業界に多大な期待が寄せられているとは感じられない。ICT業界自身も「実現したい都市の姿や機能を提示してさえくれれば、いつでも実現します」といった待ちの姿勢が強いようにみえる。米IBMや米シスコシステムズらが「Smarter Planet」や「Smart + Connected Community」のコンセプトを掲げ、市場にメッセージを発しているのとは対照的だ。

“後出しじゃんけん”では期待される対象になれない

 待ちの姿勢はICT業界に限ったことではないかもしれない。10月4日から8日にかけて千葉市の幕張メッセで開かれた電機・電子系の展示会「CEATEC JAPAN 2011」(シーテック)にも、その傾向が現れている。東日本大震災に起因する電力・エネルギー問題を背景に、次世代の電力流通網や省エネ住宅に向けたスマートグリッド/スマートハウス関連の技術や製品が一斉に出展・展示されたことだ。

 大震災から6カ月で、スマートに向けた多数の技術・製品が提示されたことは、日本の高い技術力の表れだろう。だがそれは、技術としてはこれまでも保有してきたものの、都市開発や住宅開発といった市場に向けた情報発信を怠ってきた結果とも言える。事実、日本は代替エネルギー関連の特許取得数は世界の過半数を占めるものの、同分野の先進国としてはトップ10にも入らない(関連記事『環境技術、日本が10位にも入らない理由』)。技術を保有しているかどうかを公表していない企業に、解決策を相談する顧客はいない。

 これは、昨今のスマートフォンやタッチパッドの市場を見ても変わらない。iPhoneやiPadの成功を見てから、「我々ならもっと良い製品を作れる」と言わんばかりに、各社が製品を投入している。しかし、既に随所で指摘されているように、iPhone/iPadの成功はハード単体によるものではないことは明らかだ。“後出しじゃんけん”で投入した製品の方が機能が豊富だったり、価格が安かったりはするものの、市場のけん引者になれないのもまた事実だろう。