「オラクルのデータウエアハウスソフトExadata(Storage Server Software)に対抗する商品を出す」。富士通のソフト事業を統括する山中明執行役員常務は2011年9月中旬にこう語り、ミドルウエアなどソフト事業を強化する作戦を明らかにした。オラクルなど協業する欧米ITベンダーとの関係を維持しながら、ソフト事業の競争力をどうつけるのか注目を集めそうだ。

もともとミドルウエアはSI強化のツールだった

 富士通のミドルウエアは、システムインテグレーション(SI)の付帯商品という位置付けとみられていた。SIからより多くの収益を稼ぎ出すために欠かせない商品だが、富士通の中核事業はあくまでSIやソリューションにある。なので、SI事業を展開するために必要な自社商品を開発する一方、それを補完する欧米ITベンダーのミドルウエアやアプリケーションをそろえてきた。「ソフト技術者の人数も売り上げもIBMやオラクルに比べて10分の1の規模。自前ですべてをそろえるのは難しいし、効率的でもない」(山中常務)からだ。

 富士通の山本正已社長も2010年7月の経営方針説明会で、自社開発するソフトは運用管理やセキュリティなどに絞り込んで、クラウドサービスの商品作りやグローバル販売体制の再構築に力を注ぐとしていた。このため、ミドルウエア単体での勝負はしかけてこなかったという。自社商品に、オラクルやマイクロソフト、SAPなど欧米ITベンダーの商品とオープンソース・ソフトを組み合せた体系にし、クラウド基盤やサービスを支えるソフト群に仕立ててきた。

 だが、ここに来て富士通は態度を変え、ミドルウエア製品でも欧米ITベンダーと勝負する姿勢を示した。富士通製ソフトの存在感が薄れてきたのか、山中常務は「富士通はソフトをやっているのか、という声も出てきた」と話す。

このままではSI事業を取られてしまう…

 ある業界関係者は「母屋(SI)を取られる危機感を募らせているのだろう」と富士通の変節を分析する。最近の欧米ITベンダーは、ミドルウエアのカバー範囲をIaaSからPaaSへと広げている。複数のミドルウエアとハードウエアで組み上げたアプライアンス製品も開発している。欧米ITベンダーの垂直統合を黙って見ていたら、富士通の収益源であるSIに大きな影響を及ぼしかねない。そして、グローバル展開を進めるユーザー企業が欧米製ソリューションを求めるようになったら、富士通が目指すグローバルカンパニーへの道が遠のく可能性もある。

 富士通は、まずオラクルのExadataやアプリケーションサーバーのExalogicに対抗する大量データ処理向けミドルウエアを投入する。具体的には、OLTP向けミドルウエアやデータウエアハウス向けデータベースなどを2011年度下期から2012年度下期の間に発売する。大量データ処理に適したPaaS環境も用意する。

 問題は、現場の技術者やユーザー企業の経営者がそれを積極的に採用するかどうかだ。山中常務は、「ユーザーに(ミドルウエアの)体系的なポートフォリオを公開する。ハード/ソフト戦略をホワイトペーパーとしても公開する」ことで信頼感や安心感を高めようとしている。

 国内のSIやソリョーションを死守できても、次の戦場であるクラウドサービスの基盤ビジネスを奪われてはまずいだろう。山中常務は「ソフト事業は頑張っている」と意欲的な姿勢をみせる。あとは実績を上げるのみだ。期待している。