「IT企業にこそ、ダイバーシティ(人材の多様性)を活かした経営が求められている」。筆者が、日経BPコンサルティングで、BtoB企業向けの市場調査や、ダイバーシティ診断などの業務を通じて、近頃感じていることだ。この論拠として、(1)IT企業の競争環境、(2)IT関係者に浸透する潜在的な可能性、(3)他業種との比較、(4)IT企業での実例、(5)IT企業での関心の高まり、の5点を挙げたい。

 ダイバーシティ・マネジメントとは、「性別、年齢、未既婚、家族構成、人種といった組織の構成メンバーの属性や、価値観・行動特性などの多様性(ダイバーシティ)をすべての従業員が互いに認め合ったうえで、その多様性を経営に活かす戦略」のことであり、これを単に「ダイバーシティ」と略すこともある。なお、この記事でIT企業とは、法人向けにSIやシステム運用などのサービスを提供している国内の事業者をさす。

ダイバーシティ経営で組織能力を高める

 IT企業が提供する製品・サービスは、差別化が難しい。商材を提供するIT企業が、競合社とのわずかな差異を差別化ポイントとして訴求しようとしても、顧客はその差異を知覚できない。例えばIT企業各社が現在注力するプライベート・クラウド事業にしても、顧客の立場で、各事業者の差異を明示するのは難しい。

 商品・サービスで差別化しにくいIT企業が競争力をもつための方策として、事業分野のポジショニングではなく、「従業員による組織能力の開発と蓄積」に力点を置いて、競争戦略を描く手法がある。図1は、競争戦略の分野で話題となった「ストーリーとしての競争戦略」(楠木 建著、2010年5月、東洋経済新報社)のp.234の図をもとに、同著作の趣旨を踏まえて改訂したものである。

 [What]=「ポジショニング」での差別化が困難な場合、[How]=「組織能力の開発と蓄積」をどう磨き上げるかが、鍵を握ることを示している。この組織能力を中長期的に高める方策の一つが、「ダイバーシティを活かした経営」である。

図1●競争優位を獲得し、企業力を高める方策
[What]=「ポジショニング」での差別化が困難な場合、[How]=「組織能力の開発と蓄積」をどう磨き上げるかが、鍵を握る。
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