「業務を止めないというよりも、ICTで救えた命がもっとあったのではないか」---。宮城県震災復興・企画部の佐藤達哉情報政策課長は振り返る。

 9月1日・2日の両日、都道府県のCIO(情報化統括責任者)/情報化推進担当責任者が一堂に会する「都道府県CIOフォーラム 第9回年次総会」が熊本市で開催された。日経BPガバメントテクノロジーは事務局として企画・運営に携わっている。

 今回の年次総会は、3月11日の東日本大震災の発生後、初の全体会合ということで、「震災から学ぶBCP(業務継続計画)」を主テーマにディスカッションを展開した。議論の詳細は、9月末発行の日経BPガバメントテクノロジー 2011年秋号や「ITpro 電子行政」サイトに順次掲載するが、ここでは被害が大きかった岩手県・宮城県・福島県での県システム関連の被害や対応の一端について先行してお伝えする。

いわて情報ハイウェイが寸断、合同庁舎や拠点間の通信が途絶

 岩手県では、県内の出先機関や大学・病院などを結ぶ情報通信基盤である「いわて情報ハイウェイ」が、沿岸地区の津波による浸水や機器流失などにより寸断。岩泉・宮古・釜石・大船渡の合同庁舎のほか、53拠点との通信が途絶した。通信サービス提供事業者であるNTT東日本が懸命の復旧作業に当たったが、県央部と沿岸部の中核ラインである盛岡-釜石間の復旧までに6日、大船渡や宮古の回線復旧までには1カ月半を要した。

 財務会計・総務事務などの基幹業務やメール/掲示板などの「行政情報ネットワーク」は、いわて情報ハイウェイ上のバーチャルLAN(VLAN)として稼働している。このため回線途絶により、9振興局・41学校・9病院・6警察署など76拠点で、業務に利用できなくなった。業務委託先のデータセンター(盛岡市)は被災を免れたものの、全県停電により自家発電機に切り替え。30年前に設置したままで老朽化していた発電機の運転負荷を下げるとともに、燃料調達先の被災と輸送路の分断で燃料供給が制約されたため、30業務システムの計画停止に踏み切った。

 総務部法務学事課の菅野義克行政情報化推進課長は、「通信回線の2系統化や迂回路は津波で一気に流失し、機器の2重化や冗長構成も停電で機能しなかった。安定した電源や天変地異がないことを暗黙のうちに前提にした冗長構成では限界がある」と省みる。今後の対策としては、通信回線と電源の確保を重点に、パブリッククラウドの利用なども検討する考えである。