米国において、スマートフォン浸透による定額制料金の崩壊が話題を呼んでいる。米AT&Tに続き、最大手の米ベライゾン・ワイヤレスも従量制料金の導入に踏み切り、大手各社がギブアップした状態となった。

 こうなると日本でも定額制が終焉するのかという点が気になってくる。実際、ソフトバンクモバイルの孫正義社長は、定額制見直しの可能性に言及し始めた。

 しかし通信事業者を中心に水面下で行われた市場調査では、消費者の反応は厳しい。従量制になったら半数近くがスマートフォンを解約するという結果も出ているようだ。

 また、こうしたユーザーの反応を受けてか、NTTドコモのLTE(Long Term Evolution)サービスなどでも動きがうかがえる。現時点では月に5Gバイト以上利用した場合に従量制となるが、今後これを、帯域制限付きの定額制に見直す可能性を見せ始めているのである。

 日本では固定・移動体通信のいずれについても、消費者が定額制の料金に慣れている。事業者は、おいそれとは、海外で進む定額制見直しに追随できないだろう。しかも現在は、スマートフォンの競争で“囚人のジレンマ”状態に陥っており、悩みは深い。

事業者は事態を予測できなかったか

 それにしても、なぜ通信事業者は定額制を維持できないのか。トラフィック爆発はあくまでも、スマートフォンによって引き起こされた<結果>。その結果を生み出した<原因>は、ほかならぬ通信事業者自身が、歯止めの利かないスマートフォン市場に一気になだれ込んだことだ。

 そもそも、トラフィックが増えて通信事業者が苦しむという構図自体が、どこかおかしい。通信事業者の使命は、自分たちのインフラを使って消費者にたくさん通信してもらうこと。ならば、本来は歓迎されるべきことだろう。運用効率のよいデータ通信ならなおさらだ。にもかかわらず従量制を検討するのは、トラフィック爆発を受け止める準備が通信事業者自身にできていなかったと言わざるを得ない。その見通しさえ立てられないのなら、販売とサービスが通信事業者に一体化されている意味はない。

 また、どうやっても設備そのものが不足するのであれば、定額制というビジネスモデル自体が、データトラフィックを無尽蔵に生み出すスマートフォンにはフィットしていないことになる。いずれにしても、「自ら仕掛けておいて何を今さら」というような話である。

 業界に身を置く以上、そんなに単純に回避できる話でなかったことは百も承知である。ヒト・モノ・カネがタイミングよくそろわなかったり、バランスが崩れたりすると、どんな商売だってうまく回らなくなる。予想を超える顧客が殺到し、そろいもそろって買い占めに走る---そんなスーパーマーケットは早晩経営に行き詰まる。今の通信業界はそうした渦中にあるように見える。

 携帯事業者は、ただでさえ、スマートフォンの台頭によって「土管化」の危機に直面している。例えば米グーグルは、ソーシャルネットワークサービス「Google+」を本格導入することで、いよいよAndroidの先にいる最終消費者のライフログ情報を、自社の経営資源として露骨に取り込みはじめた。こうした動きを看過しては、通信の付加価値ばかりか、事業者としてのアイデンティティーさえも失いかねない。

 今はまだ土管でも十分に稼げる。しかし従量制が検討されるほど状況が厳しさを増しているなら、今のうちに新たな経営オプションを用意しておかねばなるまい。巨大なインフラ更改が控える中、打ち手を間違えれば致命傷となり得る。目先の利益ばかり追うのではなく、自らの役割を再定義する必要がある。