「進む方向が明確になり、その実現に向けた体制を整えた」――。富士通の山本正已社長は2010年度の経営方針として『守りから攻めに転じる』と説明した。その進捗状況をこの8月にインタビューで問うたところ、山本社長はこう答えたのだった。

 これから富士通が進む道は、テクノロジーをベースにしたサービスモデルを作り上げていくこと。その中心はクラウドサービスになる。「世の中に先行するテクノロジーやサービスを提供できなければ、富士通の未来はない」との決意でクラウド事業に取り組む考えである。

「ユーザーのしたいこと」に応える新しいツール

 山本社長の考えるサービスは、「ユーザーのしたいこと」をITで実現することだ。ユーザーの要求に応えるこうした姿勢は、10年も20年も前からITベンダーにあったはずだが、山本社長は「『こうあるべき』『こうしたらどうか』という富士通の考えを押し付けていた」と、ユーザーのビジネスを理解せずに提案していた面もあったという。

 それが如実に現れていたのがシステム構成である。「仕事量の見積もりに対して、どうしてもシステム構成がオーバースペックになっていた」(山本社長)。しかも、ユーザーごとの個別要求に対して、ゼロからシステムを作り上げていたから、コストも時間もかかっていた。対応できるシステム構築の数に限りもあった。

 その問題を一気に解決するのがクラウドになる。クラウド上に新しいサービスを追加していくことで、様々なユーザーの要求に対する解をどんどん増せるからだ。分りやすく言えば、SaaSのメニューと顧客数を増やすのである。ある企業向けに用意したSaaSを、別の企業にも容易に適用できるような仕組みにもする。

クラウドの基幹部分に富士通の技術をつぎ込む

 そのために、「クラウドの垂直統合型を目指す」(山本社長)。インタフェースにあたるパソコンやスマートデバイスからネットワーク、サーバー、ミドルウエア、サービスまでをそろえる。その実現のためにM&Aも考えられそうだが、山本社長は「欲しい会社がないし、資金もない」とし、「世界のトップベンダーのサービスを加える」という作戦を展開する。

 トップベンダーのサービスとして、米マイクロソフトのWindows Azureや米セールスフォース・ドットコムのCRMサービスなどを扱う。当然ながら、富士通のサービスと競合する部分は少なくない。富士通が全領域のサービスを自社開発するのは困難なので、ある程度は仕方がないだろう。ただ、富士通として、どこに自社の特色を打ち出すつもりなのかは気になるところだ。

 この問いに山本社長は「富士通のテクノロジーを生かせるクラウドベースの基幹のところを自社開発する」と話す。スーパーコンピュータもその1つになるという。「スパコンはエンジニアリングクラウド向けで、最先端のスピードを求めるユーザーの要求に応えるものだ」(同)。

 こうしたハードウエアを自社開発することで、海外ITベンダーとの協業も築けると目論む。「パソコンからスパコンまで多様なプラットフォームを持つことで、海外のITサービスベンダーが日本でビジネス展開するときに協業できる」(同)。