写真●米Adobe SystemsのAustin Bankhead オムニチュアビジネスユニット インダストリーマーケティング担当ディレクター
写真●米Adobe SystemsのAustin Bankhead オムニチュアビジネスユニット インダストリーマーケティング担当ディレクター
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 先日、米Adobe Systemsでオムニチュアビジネスユニットのインダストリーマーケティング担当ディレクターを務めるAustin Bankhead氏に会って話を聞く機会があった。Bankhead氏は、企業におけるマーケティング活動を統括するCMO(Chief Marketing Officer、最高マーケティング責任者)を対象に、「Adobe SiteCatalyst」や「Adobe Insight」といったデジタルマーケティング向けの分析ツールを提供する部門を統括している(写真)。

 日本では聞きなれないCMOという役職だが、Bankhead氏はWebサイトやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などによるデジタルマーケティングが台頭しつつある中で、その役割は非常に重要になりつつあると語った。

マーケティングにもROIや説明責任が求められる

図●Bankhead氏は、デジタルマーケティングに関するトレンドや事例を紹介する「[<a href="http://www.cmo.com/" target="_blank">CMO.COM</a>]」の立ち上げも手がけた。
図●Bankhead氏は、デジタルマーケティングに関するトレンドや事例を紹介する「CMO.COM」の立ち上げも手がけた
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 CMOとは、これまで企業のマーケティング部門や広告宣伝部、営業部、商品企画部といった各部門がバラバラに取り組んできたマーケティング活動を、会社組織全体の利益や優先度を考えて管理・最適化する役職である。米国でも4~7年前に登場したばかりだという。

 2008年の世界的な景気後退で、マーケティング活動にもROI(Return on Investment、投下資本利益率)の考え方や、それぞれの活動に対する説明責任が求められるようになった。WebやSNSなど、ユーザーの行動を計測可能なメディアが台頭し、こうしたメディアで得られた顧客情報を使って効率的に商品をプロモーションしたり、企業/商品が持つブランド価値の向上に繋げる役割として、CMOという役職の存在感が増しているのである。

 新しいメディアが次々と登場する中で、CMOが責任を持つ範囲は年々広がっている。企業のブランド価値向上という観点から、顧客管理もCMOの責務の一つとなる。CMOは、限られた期間内でマーケティング活動を収益に繋げるという短期的な責務と、企業のブランド価値を守り、さらに向上させるという長期的な責務の両方を担っている。

SNSは一過性ではない、消費者の発言を真摯に受け止める

 こうしたCMOにとって、FacebookやTwitterなどのSNSへの取り組みは、非常に挑戦しがいのあるものだという。企業のメッセージを思い通りに出せる広告と異なり、SNSは商品やサービスに対する評価をすべてユーザーに委ねることになる。話題の広がりとともに、ユーザーによるポジティブな反応が拡散して大成功を収める可能性がある一方で、ネガティブな反応が広まってなかなか終息しないといった事態も考えられる。

 それでもBankhead氏は「企業は積極的にSNSに取り組むべきだ」という。「SNSは一過性のものではなく定着し、無視できなくなる。SNSで消費者が発言する内容を、企業は真摯に受け止め、企業は消費者と同じ目線で語っていく必要がある」と説明する。

 全社的なマーケティング方針に責任を持つCMOは、限られた予算をどう広告やプロモーション活動に分配するかの権限も持つ。長年CMOを見てきたBankhead氏から見て、予算の配分先は徐々に既存メディア(テレビ、新聞、雑誌、ラジオの4媒体)からオンラインメディアに移ってきているという。「既存のメディアもなんとか状況を変えたいと努力はしているものの、うまく対応できていない」と指摘する。

 ただし既存4媒体の中でもテレビの持つ伝播力は強力で、テレビCMをきっかけにして、その後のユーザーのアクションを測定可能なWebやSNSに誘導するといった組み合わせで、活用されている。同様にそのほかの既存メディアもオンラインメディアに完全に置き換えられるのではなく、それぞれのメディアの特性を生かしながら、役割が再構成されると見ている。Bankhead氏は「CMOが大変だと言われているのは、従来のメディアに加えて増え続けるSNSなどの新しい媒体についても正しく理解したうえで、各媒体を効果的に組み合わせて活用することが求められるため」という。

国内企業でCMOは定着するか

 マーケティングや広告宣伝、営業、商品企画と、縦割り組織であることが多い国内企業では、CMOのような組織横断的な役職を定着させるのは難しいという意見は以前からある。しかし限られた広告・プロモーション予算を、最大限に活用したいという要望はどの企業でも同じである。

 国内でもスマートフォンが普及し、TwitterやFacebookといったSNSサービスが利用者を拡大している。広告やプロモーションの展開方法が急速に拡大・変化する中で、国内企業であっても「顧客との接点」という観点から広告、マーケティング、顧客対応を見直し、連動させざるを得なくなるのではないか。そして、そうした見直しを指揮するためにはCMOが必要になると、Bankhead氏との会話を通して実感した。