日経Linuxは毎号、付録DVD-ROMに注目のLinuxディストリビューションを収録している。最新号には7月10日に公開された「CentOS 6.0」を収録しよう、と考えていた。CentOSは、企業向けLinuxで最もシェアが高い「Red Hat Enterprise Linux(RHEL)」を基に作って無償で配布している“RHELクローン”だ。日経Linuxの読者ではUbuntuに次いで2番目に利用が多い。IDC Japanの今年5月の調査では、サーバーの設置台数に対するOSの搭載比率で、CentOSが2割も占めている。

 しかし実際、DVDーROMに収録したのは「Scientific Linux 6.0」だった。Scientific LinuxもRHELクローンの一種。だが、日経Linuxの読者どころか日本国内にはまだほとんどユーザーがいないものである。

主要メンバーの離脱が原因

 異例の選択となってしまったが、これには2つの事情がある。1つは、CentOS 6.0がDVD-ROMの容量でほぼ満杯となり、他の記事のサンプルプログラムなどが入り切らなかったこと。Linuxの肥大化を表す事実だが、これはまあ仕方がない。そこで、中身が軽量のライブ版を入れようとした。ライブ版とは、該当ファイルをCD/DVDに焼き、そのメディアから起動すれば、そのままLinuxを利用できるものだ。ところが、編集部でDVDコンテンツを作成する時点でCentOSのライブ版が公開されていなかった。6.0が公開されて数日内に公開されるはずだったのだが――。

 “たまたま”という話なら編集部内で話し合えばよいレベルの問題だ。だが、ここにオープンソース業界に潜む大きな問題が関係している。

 CentOSの公開が遅れたのはライブ版だけではない。6.0本体も半年以上の遅れとなっている。今年の7月にリリースされたCentOS 6.0は、もともとRHEL 6.0が出て2~3カ月後の昨年末には登場するはずだったのだ。リリースが遅れた主な原因は、開発の主要メンバーの1人が離脱したことである。離脱の詳細は分からないが、主要メンバーが離脱の際に書いたブログからは、プロジェクトがうまく進まない状況が見て取れる。

 CentOSは、元をたどれば、約10年前にRed Hat Linuxが商用の企業サーバー向け「RHEL」と、そのテスト版の位置付けとなる「Fedora」とに分かれた際、無償で企業サーバーでも使えるものとして有志が開発し始めたものだ。公開されているRHELのソースコードから商標に関する箇所やロゴなどを取り外し、無償で提供している。ボランティアのみの運営で、企業向けOSとしてここまで頑張ってきたのだが、プロジェクトの運営が難しく開発が停滞する現状、企業ユースとしての役割を果たしにくくなってきている。

 Scientific Linuxも同じくRHELクローンとしてCERN(欧州原子核研究機構)などが開発し、公開しているもの。こちらは早くもRHEL 6.1をベースにしたバージョンを提供しており、CentOSの代わりとして注目を集めている。このため今回、代替品としてScientific Linuxのライブ版を追加したわけだ。