2010年後半あたりから、TD-LTEに関する問い合わせが増えた。それぞれ関心の対象は多様だが、端的には、「果たしてTD-LTEはブレイクするのか?」の一言に尽きる。

 TD-LTEの未来について、筆者自身は特に決まったスタンスを持っていない。一般論として、TDD自体は興味深い技術であり、多様な将来像があり得ると考えている。ただ、昨今のTD-LTEに対する業界での関心の高まりは、やや過熱気味に映る。

 というのは、今の状況では、TD-LTE市場が思ったほどすぐに成熟しそうもないからだ。世界的に見て、通信事業者/ベンダーの双方でTDD技術のノウハウを蓄積しているプレーヤーは少ない。当初は最大の調達者と見られる中国のチャイナモバイルが、TDD技術のノウハウ蓄積の役割を担い、TD-LTEをけん引すると期待されていた。

 ところがそのチャイナモバイルについて、来年の政権交代を控え、動きが鈍っているという話がある。実際、今春のMobile World Congressでは、当の本人たちや欧州ベンダーから、そう聞かされた。先の「江沢民前国家主席の死亡報道」の背後に中国政府内の権力闘争が指摘されるように、中国の内情は混迷を深めている。その影響で中国の通信産業が停滞してしまうと、TD-LTEの成熟もしばらくは期待できないことになる。

 TD-LTEは、FDD-LTEとの機器の共用化によってスケールメリットを得られると期待されてきた。しかしこの観点でもメリットを十分享受できる段階ではない。先行して市場を拡大するはずのFDD-LTE陣営が、今ひとつピリッとしないからだ。

 米国ベライゾンはルーラル中心に設備投資を進めており、特に都市部での運用技術の蓄積とスケールメリットが十分でない状況が続いている。LTEファミリーの便益を享受できるのはまだ先になりそうな雲行きである。

LTE-Advancedと競合の可能性も

 TDD陣営はモバイルWiMAXで先行したものの、結局はLTEに押されて先行きが不透明となっている。同じTDD技術を採用するTD-LTEへのマイグレーションに期待するのは当然だろう。

 しかも2.3G~2.6GHz帯は、中国を含めて世界的にも、TDDを中心としたBWA技術を利用する動きがそろっている。ここで通信方式のデファクトスタンダードの座をつかめば、世界規模の一大経済圏を作れる可能性がある。規制当局へのけん制を含めて、主導権を握りたいと考える通信事業者やベンダーがいてもおかしくない。

 日本では、2.5GHz帯が割り当てられた旧ウィルコムのXGP資産を継承した、ソフトバンク系のWCPが、XGP2と称したTD-LTEの類似技術の導入を目指している。またインドや米国でもモバイルWiMAXを前提に割り当てられた周波数帯で、TD-LTEの導入を模索していると聞く。

 こうした環境を整え、エコシステムを作り出していくことが、TD-LTE普及の条件と言える。そのタイミングは、FDD-LTEの2~3年遅れ、つまり2015年前後だと筆者は考えている。

 ただその頃には、LTE-Advancedの台頭という、また別の課題が持ち上がることになる。既にNTTドコモは、今春に横須賀で実施した同技術のフィールド実験の様子を公開している。商用化に向けて開発が相当進んでおり、あとはベンダーがどう担ぐか、というところまで来ているように思われる。

 LTE-Advancedは、ITU-Rでの標準化でも、FDD/TDDのどちらの方式とするかは特段定められなかった。恐らくは現在のLTEと同様に、どちらでも使えるように考慮しているのだろう。となると、今後1~2年の規制当局の差配や各事業者による働きかけが、TD-LTE台頭のカギを握りそうだ。