6月23日、福島県いわき市にある住設機器大手クリナップの鹿島システム工場を訪れた。生産現場を復旧させるまでの足取りと、今後のBCP(事業継続計画)の見直しの方向性を取材するためだ。

 主力商品のシステムキッチンを生産する鹿島システム工場は、3月の東日本大震災で大きな損傷を被った。6月23日時点でも、少し注意して観察すると工場内に震災の痕跡が見つかった。例えば損傷した窓ガラスの修復が終わっていない個所があった。また、この日は気温が30度近く、湿度も高かったにもかかわらず、工場内は冷房を全く利かせていなかった。節電のためだ。

計画を上回る受注に活気づくクリナップの鹿島システム工場の生産現場
計画を上回る受注に活気づくクリナップの鹿島システム工場の生産現場
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 このような状況にもかかわらず、生産現場は活気づいていた。5月以降、受注が計画を3割以上も上回るペースで推移しているためだ。

 ここまで立ち直れた背景には、弱気になりかけた幹部たちを一喝し、士気の崩壊を食い止めた佐藤茂取締役兼常務執行役員生産本部長の強いリーダーシップと、従業員たちの踏ん張りがあったことが、取材を通じて分かった。

生産拠点8カ所が同時に震災に見舞われる

 実はクリナップは、今回の震災により1カ月間にわたり受注停止に追い込まれた。「生産拠点が集中し過ぎていた」(佐藤取締役)ためである。同社は創業者の出身地に貢献しようという考えの下、鹿島システム工場を含め、9カ所中8カ所の生産拠点をいわき市に集中させていた。今回はこれが災いし、生産拠点の大半が同時に被災してしまったのである。

 いわき市には今回、地震や津波に加えて原発事故がのしかかってきた。事故発生の直後や一部のエリアを除き、いわき市の放射線量はそれほど高い値ではなかったものの、市街からは一時的に人けが途絶えた。3月半ばにはあらゆる商店が閉鎖され、生活物資の確保が困難になったため、自主的に避難する従業員もいた。従業員の出社がままならない状況のため、どの工場も復旧作業どころではなかった。事態がなかなか好転しないなか、佐藤取締役は従業員に発した自宅待機命令を、期限が来るたびに延長せざるを得なくなっていた。「この期間のロスが痛かった」と佐藤取締役は振り返る。

 ただし佐藤取締役と各工場の幹部たちは、ただ手をこまぬいているばかりではなかった。この間にテレビ会議を利用して本社に状況を報告するほか、生産設備に損傷がないかどうかの点検を済ませようとした。プレス加工機などの大型設備は、メーカーの担当者でなければ安全確認が難しいからだ。佐藤取締役は、他社からの依頼にも追われている設備メーカーを2日間にわたり説得。3月20日の週に各工場の設備を点検してもらう確約を取りつけた。