「10年後、20年後にIT部門を率いるべき人材を見出しにくくなっている。このまま放っておくとIT部門が弱体化する企業が続出する」。自身もユーザー企業のIT部門でマネジャーを務めつつ、IT教育コンサルタントとしても活躍する芦屋広太氏はこのような危機感を持つ。

 なぜか。企業のIT部門が人を育てる力を急速に失いつつあるからだ。芦屋氏いわく、「IT部門の役割が従来と比べ大きく変わってきている」「IT投資は増えず、人も増やせない」「そもそもIT部門が、システムを作る機会が減っている」という3点が主な理由だ。

「OJT以外に決め手がない」と悩むユーザー

 確かにユーザー企業のIT部門は、システムを作るだけではなく業務改革を担ったり、経営戦略と連携したシステムの提案を求められたりするなど、役割は急速に増えている。しかも事業は国内だけでなくグローバルに広がりつつある。

 芦屋氏の指摘どおり、「OJT以外に若手人材をうまく育てる方法がなく悩んでいる」と頭を抱えるユーザー企業は少なくない。

 しかも景気低迷や競争の激化でIT投資を増やせる環境になく、人も増やせない。その割には「細かな仕事は増えて、後輩の面倒を見たり、様々な社外セミナーに若手を派遣する余裕さえなくなっている」(芦屋氏)。

 加えて、経験を通じて若手人材を大きく成長させるような、「大規模システム開発案件は減っている」(芦屋氏)という。実際にモノを作る機会が減れば、企画力や開発力、創意工夫する力は落ちていく。こうした環境では、大きなプロジェクトをあえて任せて若手を育てるという、従来の育成法も使えない。

 そんななかでも、役割が増えていくIT部門を率いるべき次世代リーダーは育てなければならない。それは、どんな人物像か。技術的な知識だけでなく、「業務改革を推進する力」「IT活用を自ら提案する力」「あらゆる関係者を説得する力」「グローバル化への対応力」など、どの部門でも重宝がられるような様々な能力を持つ人材だ。

「10年後に笑うIT部門」となるために

 マネジャー層もこうした新たな役割への対応を求められており、若手を育てるどころではないという人も少なくないようだ。「次世代のリーダーを育てる前に、まず部長や課長クラスが新しいミッションに対応していかなければならず、みんな大変な思いをしている」(あるIT部門のマネジャー)との本音も漏れる。

 現在のマネジャー層が前述のような多様な能力を備えておらず、若手が目指すべき次世代のリーダー像となり得ていない企業があるのも事実。若手を育てにくい環境であるばかりか、目指すべき人材像さえ部門内で具体的に示しにくくなっているのだ。

 だが、現状に甘んじてうまく若手を育てられなければ10年後、人材不足に泣くIT部門が続出することになる。一方で、この課題に今から向き合う姿勢を打ち出した企業のIT部門は、競合他社に比べ10年後、一歩抜きんでた存在になれるはずだ。会社の業績にも大きな影響を及ぼす。

 「10年後に泣くか笑うか」――。まさに今、企業のIT部門は未来の競争力を左右する大きな岐路に立たされている。

 こうしたなか、様々なIT部門への取材を通じて浮かび上がったのは、若手の人材育成の要となるのは「マネジメント」力の向上にある、ということだ。限られたリソースで最大の成果を生み出すため、組織や個人のマネジメントの力を高めようと試みる企業が増えている。ベストセラーとなりアニメや映画化もされた「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(もしドラ)や、ピーター・F・ドラッカー氏の著作「マネジメント」が日本では大流行しているのも、こうした背景と関連があるのかもしれない。