2011年7月5日、講演のため札幌へ出かけた。北海道には昨年10月にやはり講演で登別に来たのだが、札幌は久しぶりだった。

 札幌には、電電公社(現NTT)の新入社員時代に1カ月間だけ住んだことがある。苫小牧電話局で1年間見習い社員をしたあと札幌に移り、コンピュータ実習のため大通公園に面したビルに通ったのだ。さわやかな夏の季節で、大通公園のビアガーデンが強く印象に残っている。

 さて、昨年7月からiPadアプリケーションの企画・開発・販売を始めて1年たった。これは売れるだろうと思っていたアプリが意外と売れず、さほど期待してなかったものがどんどん売れるということを経験した。やはり、考えているだけでは分からないことが実際に開発し、売ってみると分かる。今回はスマートデバイスのアプリが売れる条件について述べたい。

アフォーダンスとは?

 筆者が絶対売れると自信を持っていたのが「iPad相談アプリ」だ。iPadはプレゼンテーション機能がすばらしいが人と人との会話を実現する電話機能はない。

 そこでiPad用のソフトフォンを開発し、異なる場所にある2台のiPad間でディスプレイ上に資料を共有しながら電話会議ができるアプリを開発した。銀行の窓口に来たお客様に対して、本店のスタッフが金融商品の説明をする、といった使い方ができる。もちろん、単純な2地点間の電話会議で使ってもよい。シンプルなだけに用途が広く、高いニーズがあると思っていた。しかし、期待に反してあまり売れていない。

 あるお客様にこのアプリのデモをした際に、とんでもない質問をしてみた。「このアプリ、予想ほど売れなくて困っているんです。なぜ売れないと思いますか」。すると1人の方がこう言った。「iPadで電話をする、というアフォーダンスがないんじゃないですか」。

 アフォーダンス(affordance)は、デザイン用語で、「モノに備わっている使い方の暗示」のことだ。例えば、ドアにノブがついておらず平らな金属プレート付いていると、「押せばいいんだな」と分かる。受話器を見れば、誰だって電話をするものだと思う。iPadに電話のアフォーダンスがないということは、iPadを見ても誰も電話に使うものとは思わないということだ。

 これが相談アプリの売れない理由のすべてとは思わないが、面白いことを言う人がいるものだと思った。

“3K”が売れる条件

 さほど期待していなかったのに、どんどん売れているアプリもある。NECの「カタログ活用アプリ」(CP2010SP)がそれだ。PowerPointやPDFのコンテンツを、iPadが扱いやすいアーカイブ・ファイル(画像ファイル)にパソコン上で変換し、iPadに入れて使う。

 アプリを起動すると階層化されたフォルダが表示される。フォルダをタップして開くとコンテンツの表紙が並んでおり、表紙をタップするとスライドが展開される。スライドの1枚をタップすると全画面表示され、プレゼンテーションを始められる。プレゼンでは、フリックして軽快にスライドを進められる。高精細なディスプレイできれいな画像や動画を生かした効果的なプレゼンができる。

 自慢は編集機能だ。スライドが展開された画面で「編集」ボタンを押すと、指先でスイスイとスライドを動かして順番を変えられる(動画1)。「削除」ボタンを押してから、目的のスライドをタップするだけで簡単に削除できる。別々のコンテンツにあるスライドを複数指定し、統合するのも容易だ(動画2)。まるで、プールでスライドを泳がせるように編集できるので「スライド・プール」と呼んでいる。直感的で分かりやすいユーザーインタフェースなので、3分もあれば使い方をマスターできる。

動画1●スライドの並べ替え
動画2●スライドの統合

 スライド・プールをお客様に見せると、そのインパクトの強さがありありと分かる。この経験を通じて筆者は、iPadに限らずスマートデバイスのアプリが売れる条件は3Kだと確信した。「きれい」「簡単」「軽やか」だ。