スマートシティやスマートコミュニティなるものを、ITベンダーとしてどう考えればよいのか。ITを活用した公益性の高い取り組みであり、ITベンダーとして是非関与したい。当然、そう思っているだろう。ただ、それだけの発想では新たな巨大市場でキープレーヤーにはなれない。明確なビジョンに加え、「これは顧客企業のITを活用した新規事業である」という視点が必要だ。

 スマートシティ、スマートコミュニティ・・・。いろんな言い方があるが、要はITを活用してエネルギーの入りと出を制御し、エコで快適な社会を創りましょうということ。太陽光発電や風力発電、電気自動車などが重要なパーツ。そして全体を制御するのがITというわけだ。従来は、地球温暖化防止に向けての二酸化炭素排出量削減の観点から、そして震災以降は、東北復興に向けた町づくりや節電対策の観点から注目されている。

 社会インフラを造り直すという、極めて公共性の高い大きな話だ。ただ震災前までは、取り組みは遅々として進まないだろうと見られていた。地球温暖化防止は重要なテーマだが、起爆剤になりそうもなかったからだ。しかし今では、全国的に広がった電力不足への対応などから、日本全体で急ぎ取り組むべき最重要の課題となった。

 ITを活用するのだから、スマートシティ関連市場は当然、ITベンダーにとっても大きなものになる。ただ、ITベンダーのほとんどは、「あまりに大きな話すぎて、ITベンダーがイニシアティブを取る余地は無い」とみる。そのため、「市場が立ち上がってきたら、裏方や下請けに回ってインフラ企業から仕事をもらおう」、そう漠然と考えるITベンダーも多い。

 ある意味、それは正しい。スマートシティやスマートコミュニティの主役は、地方自治体などの行政に加えて、電力会社や建設会社、自動車メーカー、住宅メーカーなどである。ただ、「裏方に回って仕事をもらおう」といった受託体質丸出しの受け身の姿勢でいると、全く相手にされず裏方に回ることすらできないかもしれない。

 まず必要なのは明確なビジョン。これからの社会についての構想がゼロでは話にならない。自ら創るのが難しいのなら、他人の褌かもしれないが、某外資大手のビジョンぐらいは勉強したほうがよい。少なくとも、欲しいだけエネルギーを鯨飲できた時代は終わり、不安定化する供給量に合わせて需要を調節しなければいけない時代が訪れようとしている、といったぐらいの認識は持っておいたほうがよい。

 次に考えなければいけないのは、電力会社や建設会社、自動車メーカー、住宅メーカーなどの顧客企業にとって、スマートシティやスマートコミュニティはどんな意味があるかである。話は簡単。冒頭に書いた通り、これはITを活用した新規事業、あるいはビジネスモデルの転換だと見るべきなのだ。

 例えば電気自動車。クラウドから制御したり情報を提供したりできる「スマートカー」を実現し、太陽光発電などを装備した「スマート住宅」ともシステム連携し、住宅の電源としても電気自動車を活用できるインフラを創ろう、といった構想が自動車メーカーにはある。この前のトヨタ自動車とマイクロソフト、セールフォース・ドットコムとの提携は、そのための布石の一つと言ってよい。

 そうなると、ITベンダーが「おっしゃっていただければ・・・」といった受身の姿勢では仕事は回ってこない。顧客企業が新しいことを始めるのだから、ビジョンを共有しリスクもシェアするビジネスパートナーになるくらいでないと、顧客企業から相手にされない。

 そう言えばトヨタの豊田章男社長は、セールスフォースのマーク・ベニオフCEOの示したビジョンに共鳴し提携を決めたという。日本のITベンダーにはそんな芸当は無理かもしれないが、せめて大きな志を持って、新たな社会インフラや新しいビジネスを創る事業に、主体的に参画してほしいと思う。