コンピュータの最新技術は、ビジネスの現場でもっと活躍できる--。

 多少の願望も込め、日経コンピュータは7月7日号の特集記事「情報システムは面白い~技術者の未来を拓く“新型IT”が続々」で、企業システムの最前線で使われ始めた最新ITの動向を紹介している。

 取材の過程で目の当たりにしたのは、技術的な挑戦を伴うIT投資が新しい顧客を呼び込み、価値創造にもつながる実例だ。これまで扱えなかった大量の情報をさばき、処理時間短縮を極める。こうした技術者の挑戦で開けるビジネスチャンスがあった。コスト削減にとらわれていては実現できない価値創造だ。

高速取引の需要を呼び込んだ東証

 例えば東京証券取引所。2010年1月に稼働させた取引所システム「arrowhead」が、新たな投資家を日本に呼び込んでいる。「HFT(ハイ・フリークエンシー・トレーディング=高頻度取引)」と呼ぶ投資手法で収益を得る外資系証券会社だ。

 arrowheadは、過去のシステム障害などを踏まえたシステムの処理能力や信頼性の向上のほか、最新の金融技術に対応できるよう取引処理を高速化したことが特徴だ。証券会社からの注文指示に対し、注文の受け付け完了メッセージを返すまでの「注文応答」時間は2ミリ秒を達成。従来は秒単位だったというから大幅な短縮だ。株価情報の配信も大幅に高速化しており、売買成立から株価への反映、配信までを2.5ミリ秒で処理できる。

 東証で増えるHFTは、こうした取引所システムの圧倒的な高速処理を前提にした投資手法である。コンピュータによるアルゴリズム取引の一種で、株価の小さな値動きに反応して頻繁に売り買いを繰り返すことで、小さな利幅を積み上げる。詳細は明らかになっていないが、売買の判定には想定される株価とのわずかなズレや、情報伝達の時間差を利用しているとされる。HFTを呼び込むには、ミリ秒レベルで注文処理や情報配信を実行することが絶対条件だ。

 HFTには批判的な声もあるが、先行する欧米では数年前から普及が始まっている。東証は東京市場が国際競争力を保つにはHFTへの対応が不可欠と判断。先行する欧米の取引所に対し、国産の独自技術でキャッチアップする選択をした。基盤システムの構築を受注した富士通に、新たなデータベース(DB)技術の開発を委ねたのだ。その狙いを東証の鈴木義伯専務は「富士通と二人三脚で国産技術を育てていけば、信頼性など我々の要求も反映しやすいし、東証が開発したシステムの海外展開も可能になる」と話す。

 富士通が開発した高速DBの採用は成果を上げたといえる。注文応答時間は当初の性能目標である5ミリ秒から実際には2ミリ秒まで短縮。同時に、東証が求めた信頼性も最大限に確保できた。サーバーに搭載するDBソフトは3重以上の冗長化機能を備え、わずかな取引停止も許さない耐障害機能も持つ。現在のところ、arrowheadは1年半前の稼働から一度のシステム障害も起こしていない。