「クラウドは救世主でもないし、新しい市場でもない」。有力ITサービス会社、住商情報システム(SCS)の中井戸信英会長兼社長は“クラウド”という言葉に懐疑的な見方をする。情報システムの構築から運用・保守までを誰に任せるのか。任せるなら、その範囲は部分的なのか、一括なのか。それを、ある人はアウトソーシングと呼び、別な人はクラウドと呼ぶ。システム構築と呼ぶ人もいる。基本的な違いはない、ということだろう。

 しかし、国内のIT市場は縮小傾向にあり、ユーザーが求める質も変化している。それに対応したビジネスモデルを作り上げていく必要がある。その一環として2011年10月に独立系ITサービス会社の老舗CSKと経営統合し、売り上げ規模で3000億円を目指す。SCSのITサービス市場における生き残り戦略を探ってみる。

クラウドは99%インパクトなし

 IT業界の構造変化が続く中、多くのITサービス会社は「クラウド」に活路を求めている。だが、中井戸会長は言葉の流行には見向きもしない。クラウドという新しい市場があるわけではなく、ユーザーとITベンダーの間で、役割分担の線の引き方を変えるとクラウドのように見えるだけ、と考えている。

 ユーザーが「アプリケーションを開発する」「サーバーを預ける」「運用・保守を任せる」といったことを、数年契約で「部分的に任せる」のか、「一括で任せる」のかで、マーケットが異なるわけではないからだ。「それをクラウドと呼ぶなら、その流れにそった体制をすでに整備している」と中井戸会長は話す。

 一方、米グーグルなどクラウド系の新勢力が企業情報システム分野に参入してきている。勝ち馬に乗るような形で、グーグルなどのクラウドサービスを自社ビジネスに活用したいと策を練るITサービス会社は少なくないが、SCSが生き残っていく上で、グーグルの話はあまり関係ないという。中井戸会長は「Google Appsにセキュリティ機能を付加して提供しているが、当社の活動範囲は限定されている。収益増につながる部分が少ないということだ。長い目でみれば、グーグルが当社の経営にもたらすインパクトは99%ない」と断言する。生き残って成長するために、どの分野に投資をし、どのマーケットを主軸に展開していくのか、中井戸会長の関心はそこにある。

足元の市場が縮小しても「不動の地位」さえ築ければ…

 では、SCSはITサービス市場でどんな展開をしていくつもりなのか。基本的に、ユーザーに入り込んでシステムを構築する事業は「単価勝負」に陥る側面があるので避けたいところ。これまでシステム構築の国内市場が100あったとすれば、それは70に減り、30が海外に流れてしまう。SCSとしては、生き残りをかけているマーケットが小さくなっても、そこで不動の地位を確保することに精力を傾ける。