大震災の影響で国内IT市場に先行き不透明感が漂う中、成長戦略を描けるITサービス会社が少なくなっている。富士通の山本正已社長は「成長にこだわる攻めの姿勢を貫く」と2011年6月17日の経営方針説明会で語ったものの、成長に向けた中期経営計画をまとめ上げられなかった。4月、5月にあった決算説明会で中期経営計画を公表したのは、JBCCホールディングス(JBCCHD)やセゾン情報システムズなど数社にすぎない。

 従来からの延長線で事業を続けたら、じり貧になるだけだ。国内IT市場は縮小傾向にある。事実、2010年度も減収減益に終わったITサービス会社は多い。売り上げをこの3年間で3割以上も減らした企業もある。ハード/ソフト販売は落ち込む一方だし、システム構築の単価が下がり続けている。

 新しい収益モデルを見つけ出せなければ、再編・淘汰の波に飲み込まれるだろう。危機意識があるなら、JBCCHDやセゾン情報システムズのように、成長戦略を織り込んだ中期経営計画の作成に今すぐ着手すべきだ。

自社商品を拡充するJBCC

 「ITのコモディティ化、クラウド化、オープン化が進む中で、独自性による差別化が要る」。グループ17社で構成するJBCCHDの山田隆司社長は、自社商品を核とするソリューション事業へとシフトする新中期経営計画「innovate2013」の背景について、こう説明する。

 JBCCHDは、3カ年の中期経営計画を作り続けていたが、2010年度は単年度計画とした。従来のハード/ソフト販売を中心にした事業では成長が見込めない時代になり、2007年度にスタートした中期経営計画の目標がリーマン・ショックで達成困難な状況になったからだ。だが、このままでは縮小均衡になってしまうと考え、「環境の変化に即応し、成長を続けられる企業グループになる」(山田社長)方針を打ち出した。

 まずは自社商品の開発を強化し、それらを組み込んだシステム構築・運用へと発展させる事業を展開する。ハード/ソフト販売だけで取引が終わっていたユーザーは少なくなかった。「システム構築のホワイトスペースがある」(山田社長)。その一環から、今年に入ってシステム構築や開発ツールのノウハウや実績を持つソフト開発会社2社(ケン・システムコンサルティング、アドバンスト・アプリケーション)を傘下に入れた。自前の商品を持つことで海外事業の可能性も広がるとし、2010年から2011年にかけて中国拠点を拡充する一方、タイにも現地法人を設立する。

 これらの施策を踏まえ、JBCCHDは新中期経営計画innovate2013の目標を、2013年度に売上高1000億円(2010年度は822億円)、売上総利益204億円(同160億円)とした。中でも、ERPを含めた自社ソフトを大きく伸ばす。ERPソフト(それに伴うシステム構築などを含む)は2010年度の26億円から2013年度に38億円、BIなどの各種ツールは同じく8億円から16億円にする計画を立てた。

目標達成の工程表を持つセゾン情報

 増収増益を続けるセゾン情報システムズは、売上高を2010年度の約280億円から2013年度に320億円に、営業利益を18億円増の48億円(営業利益率15%)に引き上げる中期経営計画を策定した。そのために、「特定領域でナンバー1になる」など存在価値の高い企業を目指して、営業力強化や商品・サービスの拡充、人材育成・活用を重点施策に掲げた。

 宮野隆社長は「中期経営計画の内容は当たり前のことだが、問題は実行力にある」と話す。いくら数字を作っても達成させなければ意味がないことだろう。そこで、目標達成に向けた工程表を作成した。例えば、新規顧客を2011年度に40件、12年度に52件、13年度に68件獲得する。新商品は11年度に5件、12年度に5件、13年度に5件開発し、ストックビジネスを年率10%成長させる。間接部門を含めた社員全員にIT関連資格を取得させるという目標も設定した。間接部門の目標もある。例えば、1時間でこなしていた業務を50分にするなどだ。

 もちろん計画の達成度は厳しくチェックする。部門単位に業績をレビューし、3カ月後の予想も出す。もし売り上げや利益の誤差が3%を超えるなら、部門責任者にどのように達成させるのかと尋ねる。そもそも工程表は、各部門が3年後の事業の姿を描き、それを実現するためにまとめ上げたものだからだ。この一つひとつの施策の積み重ねが中期経営計画の達成につながる。