ITベンダーの間では今、BCP関連ソリューションの提案が一大ブームだ。BCPの話で「ブーム」なんて言葉を使うと不謹慎かもしれないが、今はどんな商材でもBCPにしてしまっているので、やはりブームと言ってよいのだろう。でも、ちょっと待て。ITを守ることがBCPの本来の意味ではなかったはずなのだが。
もちろん最近までは、企業の情報システムにとっての最大の課題は、この夏の電力危機への対応だった。だからBCPの話も情報システムの停電対策や節電対策に“矮小化”させるのは、ある意味、当然だった。でも、これからは違う。ユーザー企業の停電・節電対策が整ったのに、ITベンダーがまだ“ITのためのBCP”を提案していては話にならない。
BCPの目的は本来、業務を止めないことだ。こう書くと、「そんなことは当たり前。だから業務を止めないように、情報システムを守る提案が必要なのでしょ」と言われてしまいそうだ。だが、今の情報システムの多くは止まっても業務は動かせる・・・って話はとりあえず横に置いておくとしても、業務を止めないための提案はそんな小さな話ではないはずだ。
災害時などに業務を止めないために、ITベンダーは本来もっと大きな提案ができる。何かと言うと、例えばペーパーレス。これも「えっ!」という読者の声が聞こえてきそうだが、思い出してほしい。東日本大震災の際の津波で多くの病院でカルテが喪失し、診療などに大きな支障が出た。一方、ペーパーレス化を実現していた保険会社などは、保険金の支払業務を継続することができた。
つまり、ITベンダーがBCP上でもっと大きな貢献ができるのは、ユーザー企業のフロント業務のIT化である。会計処理などのバックヤードの業務と異なり、顧客と接するフロント業務は多くのユーザー企業でIT化できていない。そして紙ベースで業務がフローしているから、その紙が失われるとたちどころに業務が回らなくなる。
だからペーパーレス化の提案は、BCP上の大きな話なのだ。先ほどの病院の話で言えば、電子カルテの提案などだ。業務をフローさせる紙をIT化するわけだから、フロント業務のプロセスをシステム化することでもある。当然、BCPの観点からはパブリックなりプライベートなりのクラウドを活用することが前提だ。つまり業務を止めないために業務のIT化を促すわけで、これこそがBCP関連の本筋の提案だろう。
実は、こうした提案がBCPの枠組みだけにとどまっているならば、まだ小さい。フロント業務のIT化の本来の意義は、コスト削減と顧客満足度の向上(≒売り上げアップ)の両立を図ることだったはず。つまり、業務を効率化すると共に、個人が抱えていた業務を見える化し顧客の問い合わせやクレームに誰もが即応できるようにすることで、顧客にも喜んでもらえるようにすることであったと思う。
だから、フロント業務のIT化はユーザー企業の経営者なら誰でもやりたいテーマだし、ITベンダーも何度も提案してきたはずだ。でも、フロント業務の現場の強い抵抗を受け、これまで多くのユーザー企業で頓挫していたし、強引に導入しても現場で活用されず失敗に終わったケースも多かった。
だが今回、震災により多くのユーザー企業で多くの人がその有用性に再認識し始めている。つまり、平時においてはコスト削減と顧客満足度の向上を両立し、非常時には業務継続の強力な武器になる。まさに一石三鳥の強力なソリューションとして提案できるわけだ。
そんなわけだからITベンダーは、“ITのためのBCP”という矮小な話はもう止めにして、こうした大きな提案をしてほしい。ある意味、長年の懸案を解決する大きな機会なのだ。ユーザー企業に意味のある大きなIT投資をしてもらって、自らもしっかりと儲ける。それは日本復興へ向けて経済を大きく回すうえでも、必要なことだと思う。