秋葉原などを拠点とする女性アイドルグループの“選抜総選挙”が「センターへの返り咲き」で落着した。それもつかの間、プロ野球の球宴ファン投票で有望な若手・新人が票を集め話題だ。政府周辺では、次の首相になるであろう党代表の座をめぐる駆け引きが騒がしい。

 世間の注目を集めるこうした例とは違ってほとんどメディアで報道されることはないが、日本企業の今後を大きく左右するであろう人選が今、最終局面を迎えている。国際会計基準(IFRS)を策定する国際会計基準審議会(IASB)の監督機関、IFRS財団評議員会の議長の選出である。

 損益計算書や貸借対照表(財政状態計算書)などの企業財務諸表の国際基準であるIFRSは、独立した民間の非営利組織であるIFRS財団の内部機関、IASBが策定を担っている。IASBを監督するのがIFRS財団評議員会の役割であり、IASBは評議員会に対し説明責任を負っている。

IFRSの“顔”が交代

 この、いわばIFRSの存在と発展の根幹をなす評議員会の議長の座が、実は2010年12月から空席のままになっている。2010年7月に着任したトマソ・パドアスキオッパ議長(元・イタリア経済財務相)が同年12月に急逝したからだ。現在は当初副議長に就任した藤沼亜起氏(元・日本公認会計士協会 会長)とロバート・グローバー氏(米ハーバード・ケネディ政治大学院講師)が共同議長代行として、議長の任に当たっている。

 次期議長の人選は、評議員会の指名委員会が主導し、2011年1月から求人コンサルティング会社の支援を受けながら進めてきた。5月中に本人への意思確認を済ませて候補者リストをまとめ、6月時点ではIFRS財団を監督するモニタリング・ボード(各国の金融監督当局で構成)に対しリスト記載者の承認を求めている段階である。7月中に面接などを実施した後に評議員会会合で最終候補者を選定。9月半ばのモニタリング・ボードの承認プロセスを経て、直後の評議員会会合で任命の最終推薦を行うスケジュールである。

 IFRSの策定作業そのものは、財団内部のIASBが担当しているとはいえ、IASBのメンバー(理事)を承認するのは評議員会の役割である。人選を通して、IFRSの基準内容や方向性に影響を及ぼす力を持っている。

 まして、IASBそのものも大物議長が交代する。現議長は、在職した10年間で欧州の“ローカル基準”に過ぎなかったIFRSを世界100カ国以上に認めさせた功労者デイビッド・トゥイーディー卿。任期満了で退任する同氏に代わり、オランダ金融市場庁長官や証券監督者国際機構(IOSCO)専門委員会議長を務めたハンス・ホーヘルフォルスト氏が7月1日に就任する。同時に副議長には、英国会計基準審議会(ASB)議長のイアン・マッキントッシュ氏が就く。

 IFRSの“顔”とも言えるIASBとIFRS財団評議員会の両議長がほぼ同時に刷新される。これまでの方針の維持が既定路線ではあるが、変化を望む勢力が働きかけを強める可能性がある。

IFRS策定で高まる日本の発言力

 実際、IFRSを自国の会計基準として強制適用するかどうかを2011年中に判断する米国では、2010年9月末に会計基準策定団体である米国財務会計基準審議会(FASB)のロバート・ハーツ議長が急きょ退任。議長代行に就いたレスリー・サイドマン氏が3カ月弱を経て、年末に議長に就任するという出来事があった。IFRS適用の時期や方法を巡る議論が議長人事に波及したと見る関係者もいる。

 一方、2011年3月期決算から日本国内の上場企業にも連結財務諸表で包括利益の表示が義務付けられるなど、IFRSは日本企業にも浸透し始めている。10年3月期に国内初のIFRS連結決算を報告した日本電波工業に続いて、11年3月期は住友商事とHOYAがIFRS決算書を開示。12年3月期からは日本たばこ産業(JT)と日本板硝子が加わる。

 こうした採用実績の積み上げと並行して、IFRS関連団体での日本の発言力の強化が加速している。IASB理事を務め上げた山田辰己氏の後任には7月1日に鶯地隆継氏(住友商事フィナンシャル・リソーシズグループ長補佐)が就き、鶯地氏が委員を務めていたIFRS解釈指針委員会には湯浅一生氏(富士通 財務経理本部IFRS推進室長)が加わった。

 IFRS財団評議員会には前述の藤沼氏のほか、2011年12月まで島崎憲明氏(住友商事 特別顧問)も在籍している。また、IASB議長となるホーヘルフォルスト氏の後任となるIOSCO専門委員会議長には、金融庁 金融国際政策審議官の河野正道氏が4月に就任した。同氏はIFRS財団モニタリング・ボードの議長代行も務める。

 金融庁はIFRSの強制適用の可否や時期を2012年中に判断する予定であり、日本経団連などとも連携しながらIFRS関連団体での発言力強化に取り組んでいる。IFRS財団初の地域事務所が、2012年10月に東京・大手町に開設されることも決まった。IFRSの総本山であるIFRS財団評議員会やIASB、さらに米国のFASBなどで議長人事を含む動きが急を告げる中、IFRS推進をコミットすることで基準の方向性などへの発言力を高める観点からも、上場企業の取り組みがますます重要性を増していくだろう。

 さて、日経コンピュータでは、「IT部門のためのIFRS実践塾」としてセミナー「業務・システム視点でのIFRS対策のすべて」を6月28日に追加開催する。IFRSの会計基準・公開草案の最新情報をもとに、IFRSの各種基準が主に製造業・卸売業の情報システムに与えるインパクトと対策について、網羅的・具体的に徹底解説する。IFRSへの対応方針が未定の企業の担当者の方も、今後のシステム構築・改修計画への影響度を見極めるためにぜひご活用いただければと思う。