先日、独立系ケーブルテレビ事業者のイッツ・コミュニケーションズ(以下イッツコム)が、日本デジタル配信(JDS)と組んで、ケーブルテレビ業界の業務システムをアウトソーシングする「統合クラウドサービス」を開始すると発表した(関連記事)。

 イッツコムは、次世代業務システムの開発と導入を昨年から精力的に進めてきたという。具体的には、CRM(顧客管理)システム、ビリング・システム、メール・サーバーやWebサーバー、DHCPサーバー、営業支援システムなどの新規開発・高度化・高機能化である。データセンター事業も行うイッツコムがこうしたシステムをクラウドとして提供し、インターネット経由で全国の独立系ケーブルテレビ事業者が共用できるようにしようというのが構想の全体像だ。

 イッツコムによると、通信キャリア系事業者との競争を強く意識しながら、こうした業務システムの開発と導入を進めてきているという。元々は、ケーブルテレビ業界が、電話やインターネットなどの業務に進出することで、ケーブル網の利用効率を上げて収益力を強化してきた。しかし最近は、キャリア系事業者が映像配信などに進出し、サービス内容が重複してきた。各地で激しく競争しており、仮に競争に負けると設備の利用効率が下がり一気に経営が厳しくなるといった強い危機意識が蔓延している。こうした中でケーブルテレビ事業を下支えする「業務システム」に焦点を当てた発表が行われた。

ビリングシステム一つで、競争力が左右される

 JDSがケーブルテレビ業界の関係者を集めて行ったセミナーでは、イッツコムが業務システムの重要性を解説した。一つは、業務システムにかかるコストを圧縮することによるコスト競争力の強化である。さらに強調したのが、業務システムの先進性が、サービス競争を左右するということである。

 例えば、一部キャリア系事業者がFTTHサービスにおいて、従量制の概念を取り入れた2段階定額制を採用した。仮にこれに追随しようにも、イッツコムの現行業務システムではできないという。固定料金を前提にシステムが組まれているからだ。このため、ユーザーの利用量を把握し、料金に置き換えて請求書を発行するという一連の流れをシステム化できない。

 キャリア系事業者がFTTHを推進するのに対し、ケーブルテレビ業界の多くはHFC(Hybrid fiber-coaxial)を採用する。そのうえで、互いに性能競争・コスト競争を繰り広げている。しかし、新しい料金体系の考え方に追随できないのであれば、せっかくのHFC網も意味を持たない。

 いま、両業界の競争領域は、テレビ、インターネット、電話に加えて、各種無線システムに広がりつつある。サポートする端末の種類も格段に広がる。サービスの開発競争、価格競争なども重要だが、請求書業務の高度化は避けて通れない。

 ところで、こうした業務システムの高度化競争において、いくら独立系ケーブルテレビ事業者の最有力事業者であり、積極的にIT技術者の採用を進めるイッツコムといえども、単独あるいは全国の独立系事業者のパワーを合わせても、キャリア系事業者とは事業規模が違い競争にはならないだろう。

 しかし、今回イッツコムはカナダSigma Systemsと組み、その技術を採用することにした。Sigma Systems社は世界の有力な通信・放送事業者を対象に、こうした業務システムを提供している。つまり、ケーブルテレビ業界と競争するキャリア系事業者は、見方を変えれば業務系ではSigma Systems社と競争していくことになった。まさに総力戦の様相だ。