トヨタ自動車がマイクロソフトやセールスフォース・ドットコムと相次いで提携----この話を聞いた時、日米のITベンダーの彼我の差をまたもや思い知らされた。「トヨタさんに付いていきます」とは、グローバル展開に向けての某大手国産メーカーのトップのコメントだが、「提携」と「受託」、この差はあまりにも大きい。

 トヨタとマイクロソフトの提携は、プラグインハイブリッド車(PHV)や電気自動車(EV)向けのテレマティクスなどの基盤にWindows Azureを使おうというもの。片やセールスフォースとの提携は、セールスフォースのChatterを使ってSNSを提供し、自動車にもつぶやかせるという今風の話だ。まさにクラウドやSNSといったITの最先端を、PHVやEVといった自動車の最先端に結びつける“戦略提携”だ。

 実は、こうした日本の大手企業と米国のITベンダーとの戦略提携は、過去にも何度もあった。例えば1990年代前半には、NTTがマイクロソフトやシリコンバレーのベンチャー企業と提携を大々的に発表している。通信のフルデジタル化、あるいはIT化を急ぐNTTにとって、日の出の勢いの米国のITベンダーとの提携は大きな意味があった。

 その大きな意味を書く前に、もう少し別の話をする。NTTと提携したベンチャー企業はジェネラルマジックという企業で、今で言うスマートフォンを使ってオンラインショッピングなどを行えるようにする基盤ソフトを開発していた。インターネットの普及の前だから、当時はものすごく新しかった。だから、ソニーもジェネラルマジックと提携して、その“スマートフォン”を造ろうとした。

 では、なぜ日本の大手企業は、米国のITベンダーと提携しようとするのか。当たり前だが、最先端で影響力のある製品やサービス、技術を持っているからである。要は“尖っている”からだ。90年代にデジタル化を急いでいたNTTやソニーにとって、ITで尖っている企業との提携は価値があった。その提携で成果が出るかどうかは別にして、提携自体がマーケティング上で絶大な効果があった。

 NTTの戦略提携で言えば、マイクロソフトとの提携は雲散霧消し、ジェネラルマジックは企業そのものが消滅した。それでも、NTTとしてはOKだったのだ。ジェネラルマジックとの提携発表直後に、NTTの幹部が「メディアに大きく取り上げられたので、これで元は完全に取れた」と話していたのを、私は今でも鮮明に覚えている。

 さて、トヨタの場合はどうだろうか。マイクロソフトは以前に比べ随分“丸く”なったし、セールスフォースもクラウドベンダーとしては“地味”だから、今回の提携はより実利的なのかもしれない。ただ、若者の自動車離れに悩むトヨタにとって、米国のITベンダーのもたらす夢のある壮大なビジョンを共有することは、やはりマーケティング、トヨタブランドの向上の観点から極めて意味のあることだろう。

 そんなわけだから、日本のITベンダーにとって大事なお客さんである日本の大手企業は、米国のITベンダーと提携する。当然すぎるが、尖ったものをもたない日本のITベンダーとは提携しない。まあ細かな提携はあるだろうが、経営トップ同士が大掛かりな記者会見で見得を切るような提携はあり得ず、ただ粛々とシステム開発などの仕事を発注するのみである。

 まあ、日本のITベンダーはマーケティングが最大の弱点だから、無理に大言壮語せず顧客の後を付いていけば、それでよいのかもしれない。ただ、自動車関連の部品メーカーは今では立派なグローバル企業。受託・受け身の代名詞だった印刷会社も、今や出版・書店業界を糾合しデジタルメディアのリーディング企業になろうとしている。ITベンダーだって大志を抱けば、何かできるはずだが。