「未来のモビリティ社会では、走る、曲がる、止まるというクルマの機能に、もう一つ『つながる』という機能が加わる」。

米セールスフォース・ドットコムと提携し、自動車向けのSNS「トヨタフレンド」を発表したトヨタ自動車の豊田章男社長(左)
米セールスフォース・ドットコムと提携し、自動車向けのSNS「トヨタフレンド」を発表したトヨタ自動車の豊田章男社長(左)
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 5月23日、米セールスフォース・ドットコムとの提携発表の場で、トヨタ自動車の豊田章男社長は、こう明言した。セールスフォースが提供する企業向けミニブログ「Chatter」を基に、トヨタが自動車向けのSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)である「トヨタフレンド」を開発する。

 同社がトヨタフレンドで実現を目指すのは、「人とクルマ、メーカー、販売店をつなぐ、新しいコミュニケーションサービス」(豊田社長)である。新サービス「トヨタフレンド」は、利用者が自動車を日常生活で楽しむための情報を、ソーシャルメディアで提供したり利用者同士で共有したりできるようにするサービスだ。2012年に市販する電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド自動車(PHV)に採用する。

 トヨタフレンドでは、電池残量が減ったり定期点検が近づいたりすると、そのことをクルマ自身が「つぶやく」。利用者のスマートフォンには愛車の名前と共につぶやきが表示される。利用者はクルマを介して、販売店ともつながる。クルマに返信すると販売店にも情報が共有されて、販売店がネットワーク経由でクルマの状態を診断したり、定期点検の予約ができたりする。

 トヨタフレンドで提案するクルマの楽しみ方も、キーワードは「つながる」ことだ。友人同士が自動車の位置情報を車載端末でやり取りして、ドライブを楽しむという「フレンドサーチ」と呼ぶ機能を、トヨタフレンドで提供する。

ソーシャルの力で「クルマを救って」

 トヨタのソーシャルメディア戦略は、セールスフォースとの提携にとどまらない。

 「SAVE THE CAR」。トヨタ自動車の子会社、トヨタマーケティングジャパンが開催している、ソーシャルアプリケーション(ソーシャルアプリ)のコンテスト「TOYOTA SOCIAL APP AWARD(TSAA)」のキャッチコピーだ。ソーシャルアプリとは、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)上で動作するゲームや仕事用ツールなどの総称である。

 同社は「クルマの楽しさや面白さが伝わること」というテーマのもと、mixiなどのソーシャルメディア上で使えるサービスやゲームのアイデアをこの5月まで募集した。応募総数は1255件に達した。受賞者と受賞作は6月に発表し、賞金を出す。続いて受賞作のアプリ開発に取り掛かる。同社は開発企業に資金を拠出して、開発作業を支援する。

 なぜトヨタは、ソーシャルメディアによる「つながり」をそれほど重視するのか。それはトヨタを長年にわたって悩ませてきた、ある問題を解決するきっかけになる可能性があると考えているからだ。

 トヨタを悩ませる問題とは、クルマに対する消費者の関心が低下し続けていること、それに伴って自動車の国内販売も縮小傾向にあることだ。端的に言えば「クルマ離れ」である。

 博報堂生活総研の消費者動向調査によれば、「自動車、ドライブ」を趣味と答える人の割合は、長期低落傾向にある。1992年に3分の1を占めたその割合は、年を追って低下。2008年には25%を割り込んだ。記者自身、感覚的には理解していたものの、当の自動車メーカーからこうした数字を見せられると、改めて時代の変化に驚かされる。