「これこれ、これが、ウチで今一番売れているiPadアプリですよ。面白いでしょう」。日経コミュニケーションとITproで「間違いだらけのネットワーク作り」を執筆していただいている情報化研究会の松田次博氏が、セミナー講演でお目にかかった際、iPad 2を片手に、こう説明してくれた。

 このアプリケーション、名前を「カタログ活用アプリ」という。簡単に言うと、カタログやPowerPointなどで作成した資料(スライド)をiPadの画面で表示させるアプリである。特徴は、単にスライドを表示させるだけではなく、登録した多数のスライドのなかから必要なページだけを選び出したり、組み合わせたりして、資料の内容を柔軟に変えられる点。もちろん、スライドの追加・削除、入れ替えなどは、タッチインタフェースで自在にできる。

 このアプリを見せながら、松田氏はこう続けた。「だんだん、売れるiPadアプリのポイントが分かってきましたよ。“3K”って言っているんですけどね。きれい、簡単、軽やかの三つです」。確かに、iPadの特徴をうまく生かすための、分かりやすい考え方だと感じた。

 iPadが登場して以来、企業でも利用したいという声が多く聞かれ、じわりじわりと採用例が増えている。さらに最近は、Android 3.0を搭載したタブレット端末、ベンダー独自OSを搭載したタブレット、Windowsタブレット、そしてiPad 2と、端末が一気に充実してきた。

 加えて、上記のようなタブレット端末の良さを生かすアプリケーションも次々に登場している。Web会議や、会議室で使う資料共有アプリなどでも、タブレット端末対応が進むなど、企業で導入するための環境は着実に整ってきた。特にこうしたアプリが増えて利用シーンをイメージしやすくなってきたことで、端末・アプリケーションをセットにしたソリューションとして、企業が本格的に導入するケースが増えそうだ。

いざ導入、その前に考えるべきこと

 ただ、企業として導入する際には、考えなければならないことがいくつもある。まずはどんな目的で、どのようなアプリケーションを使うか。セキュリティ面からは、その裏返しとして、その用途以外で使えるようにするかどうかも考える必要がある。用途によっては、3G搭載モデルがよいか、WiFiモデルでよいのかも違ってくる。社内で無線LANに接続する場合は、アクセスできる先を制限する必要はないか。スマートデバイスについてはよく言われていることだが、盗難・紛失時の情報流出対策、ウイルス対策なども考慮すべきポイントだ。

 ほかにも、端末を数百台規模で一斉に展開するとなると、キッティングだけでも気が遠くなる。その作業はどうすればよいか。業務用に作成したアプリケーションは、どう配布すればよいか。アプリケーションを更新した場合の再配布は?

 また、iPad以外の端末が混在してきたらどうすればよいか。個人が所有している端末を社内で使いたいと言われたらどうするか。勝手に未登録の端末から接続できないようにするにはどうしたらよいか。

 もともと無線LAN環境では、任意のパソコンからの不正接続を避けるために、アクセスポイントなどでユーザーあるいはデバイスを認証する仕組みがあり、活用されている。ところが、ことスマートデバイスとなると、事情が違ってくるようだ。あるセキュリティベンダーのカンファレンスでは、「企業のCIOが、個人所有のスマートデバイスを社内で使いたいというエンドユーザーのニーズに抗しきれなくなってきている」ことが、ほぼ共通認識になっていた。日本では「個人の端末を業務に使わせることなんて、あり得ない」という声を聞くこともあるが、そう決め込んでしまうよりは、いつでも対応できるように仕組みを考えておくほうがよいのではないか。

 それぞれ、答えは一つとは限らない。タブレット端末の使い方にしても、会議の端末、ブラウザー、仮想デスクトップなどパソコンの代替などまちまち。タブレット端末から社内システムへのアクセス制御も、完全にLANを分けてしまってもよいし、サーバー側で強固な認証/アクセス制御をかけてもいい。既存のネットワーク/システム環境や用途、ポリシーによって解決策が違ってくるわけだ。

 いま、この記事をご覧の皆さんは、上記のような導入のポイントについて、考慮すべき点とその答えをすんなりと思い浮かべることができるだろうか。もしかすると、まだ「どう使ったらよいか」という方もいるのではないか。ネットワークなどの面を見落としていることはないだろうか。

 日経コミュニケーションでは、iPadに関するセミナーを開催することにした。実践!「iPadでペーパーレス」と、iPadの特徴を生かした使い方を明確にするために、iPadを利用した“ペーパーレス”を中核テーマとした。先進事例3件を紹介し、使い方の例、実践するうえでのポイントを解説する。合わせて、ペーパーレス推進のポイント、ネットワーク構築/セキュリティのポイントも専門家に解説してもらうことにした。iPadあるいはタブレット端末導入に興味がある方には、ぜひ、ご参加いただければと思う。