「5兆円にこだわってはいない」。富士通の山本正已社長は2011年4月28日の2010年度決算説明会で、HDDなど採算の悪い事業の売却やリストラで売り上げが落ち込んでいるが、収益力改善など健全な経営状態になってきたことを強調した。山本社長は「計画通りに進んでいたが、震災で商談の延伸や凍結があって計画を達成できなかった」と残念がる。

 だが、「計画通りに進んでいた」としているのは2011年1月に下方修正した数値に対してであり、期初目標の売上高4兆8000億円、営業利益1850億円(実績1325億円)とはかい離した結果に終わっている。富士通の売上高は、2000年度に5兆5000億円弱に達したが、2002年度に5兆円を割った。2006年度と2007年度の2年間、再び5兆円台を確保したものの、それ以降は伸び悩み、2010年度は4兆5284億円とこの10年間で最低の売り上げになった()。

図●富士通の売上高の推移
図●富士通の売上高の推移

 しかも、「部材調達など不確定要素が多くある」とし、2011年度の業績数値予想の公表を5月末に延期した。ある業界関係者は「富士通は将来の姿を描けなくなったように思える」と心配する。

 不採算事業の縮小や撤退などで、この10数年で有利子負債を大幅に削減する一方、キャッシュフローを増やしたことで、山本社長は2010年7月の経営方針説明会で、「守りから攻めに転じる絶好のチャンス」と積極的な姿勢を見せていた(関連記事:「サービスに軸を置く」、富士通・山本社長の方針転換)。しかし、目立ったのは欧米ITベンダーと販売提携を交わしたことなどで、新しい事業の芽は育っているのか、育ててきたのか気になる。頼みの綱だった海外事業は10年度に不採算案件が発生し、収益を圧迫した。

富士通に技術力はあるのか、ないのか

 問題は技術力にあるとの見方がある。「当社からテクノロジーをとったら、特徴のない会社になってしまう」と山本社長は技術力低下を否定するが、ある業界関係者は「技術力はあるが、商品化ができない」と経営側に問題があると指摘する。一方、ある富士通出身者は「技術力がないから利益率が低い」と厳しい意見を述べる。富士通は2010年度に売上総利益率を前年度から1.2ポイント改善し27.8%とした。純利益率は1.2%だ。

 欧米ITベンダーと比べると見劣りがする。例えば、米IBMは2010年度に売上総利益率46.1%、純利益率14.9%である。山本社長は「確かに低いが、単純に低いからといって事業を切り捨てることはしない。雇用を含めて考えるし、テクノロジーへの投資も続ける」と語る。経営状態は改善しているが、厳しい状況から完全に脱しきれたとは思えない。

 富士通はこの10年間で売り上げを1兆円近く減らした。こうしたなかで新たな成長に向けた施策を練り、投資を持続し、世界に通用するどんな商品を開発するのか。早ければ5月末に発表するとみられている中期経営計画において、将来の方向を示すことに期待する。