データの処理速度が速ければ、経営や現場に良い効果をもたらすに違いない――。今から約1年前にDWH(データウエアハウス)の取材をしながらこう思ったことが、日経コンピュータの5月12日号の特集「真実のデータをつかめ」を執筆するきっかけとなった。
業務のみならず私用で利用しているパソコンも処理が速い方がうれしい。企業向け情報システムも高速な処理な方がうれしいはずだ。と、ここまで考えたところで「企業向けシステムにとって処理を高速化するメリットは何であろうか」と詰まってしまった。
高速な処理であれば利用者のストレスはたまらず、業務も円滑に進む。これは高速処理がもたらすメリットの一つなのは間違いない。では企業システムにとって、処理が高速であることのメリットは、業務が円滑に進むことだけなのだろうか。経営や業務を変えるような効果はないのだろうか。
こうした問題意識の下、データ分析の高速化を目指している企業の取り組みをまとめたのが冒頭に紹介した特集である。特集に登場する企業は、処理の高速化によって経営や現場を変えていた。
遅いDWHは使われない
データの活用は企業にとって長年の課題だ。ところがDWHの構築は、後回しになりがちだったり、構築したとしても思ったような効果が出ないシステムと思われたりすることが多いようだ。
後回しになりがちなのは、DWHの構築に着手するタイミングが見つけにくいからだ。ERP(統合基幹業務システム)パッケージをはじめとした基幹系システムは、導入以降、着々とデータを蓄積している。基幹系システムの目的は、日々の業務処理を支援することだ。蓄積したデータを分析できなくても、基幹系システム導入の目的は達成できてしまう。
その結果、DWHの構築は後回しになり、データ活用が進まない。現在では技術的に可能になっている数十テラバイトのDWHを構築しようとする企業は「小売業や金融業、通信業者以外ではまだ少ない」とDWH構築を支援するコンサルタントは打ち明ける。DWHを構築する技術は進んでいるにもかかわらず、なかなかDWHを構築する機運が高まらない、ということだ。
実際にDWHを構築しても十分に効果を引き出せる企業が少ないのも、データ活用が企業にとって課題である理由だ。「一つの分析を実施するのに、数日以上かかるため使われなくなってしまった」「BI(ビジネスインテリジェンス)ソフトを導入したが、現場が本当に見たいデータは分析できない」といったケースはよくある話だ。
今回、特集に登場する北陸コカ・コーラボトリングと、食品トレー最大手のエフピコはいずれも処理が遅かったことが理由で、思い描いていたデータ分析ができなかった企業だ。両社とも2000年代前半にデータ分析の環境を整えていた。ところが「データ分析に数時間かかる」「新たな分析を追加しようとすると数週間かかる」といった問題が発生し、理想とするデータ分析は実現できていなかった。
高速化により、理想が現実に
北陸コカ・コーラとエフピコの両社が「使えないDWH」から脱出したのは、DWHを再構築したことがきっかけだった。両社とも2000年代後半に、DWHの再構築に着手。再構築の際には処理の高速化に重きを置いて製品を選んだ。その結果、最初にDWHを構築した際に思い描いていた、データ分析が実現できるようになったのだ。
北陸コカ・コーラは日本オラクルの「Oracle Exadata」を、エフピコはサイベースの「Sybase IQ」を利用している。北陸コカ・コーラは日本で二番目にOracle Exadataの導入を決めた企業だった。今では北陸コカ・コーラは当日のデータを、エフピコは日次のデータを業務で利用できるようになっている。
「売れ筋商品の在庫が1日減った」。これが北陸コカ・コーラが得た効果だ。エフピコは「勘の営業から脱出できた」。東日本大震災の翌営業日に通常、取引の少ない卸売業者からの発注が増えているという傾向がつかめ、営業や生産に生かすことができた。両社とも高速なDWHを構築することで、経営や現場を変えるような効果を得ている。
「やりたかったことが、実際にできるようになった」。これがデータ処理を高速化した企業の方々から最も多く聞いた意見だ。昨日までの販売実績データを営業現場で分析できる環境を整えたい、当日の売り上げデータを翌日の発注に反映したい、といった「実現したいが難しい」と企業が考えていたことが高速化により実現できたのだ。速いことは経営上でも良い効果を生み出す――のは間違いない。