ほんの2カ月ちょっと前まではほとんど誰も気にかけていなかった事柄が、情報システムの存立基盤を脅かしている。3月11日の東日本大震災に端を発した電力不足である。

 マグニチュード9.0という世界最大級の大地震と大津波は、東北太平洋岸に数多く立地する火力発電所と原子力発電所を襲った。震災直前に約5200万kW(キロワット)あった東京電力のピーク時最大供給力は、火力分で約1200万kW、福島第1・第2原発分で約900万kWが失われ、3100万kWと直前の6割の水準にまで落ち込んだ。東北電力でも、2010年度に最大1500万kWだった最大供給力は、震災直後に900万kWへと、やはり6割の水準にまで低下した。

 東京電力管内でピーク時供給力が需要に対して約1000万kWも不足する危機に直面し、経産省は電力不足による不測の大規模停電を回避するために、広く節電を呼びかけた。さらに、3月14日からは、東京電力管内で地域を区切って2~3時間ずつ電力供給を止める計画停電に踏み切った。

 東京23区のほとんどは計画停電の対象外だったが、本社が区部にあっても周辺の都下や県内に事業所やシステムセンターを構える企業では、システム面でも対応に追われることになった。3月29日以降は、気温上昇に伴う暖房需要の減少と節電の浸透により計画停電は実施されなくなったものの、危機は去ったわけではない。

 東京電力は4月末時点で最大供給電力を4200万kWまで取り戻し、5500万kWと見込んだ今夏のピーク時需要の能力確保にもめどをつけたとしている。休止していた火力発電所を立ち上げたり、ガスタービンなどの緊急設置電源を新設したりして、供給を賄う計画である。

 とはいえ、猛暑だった昨年夏のピーク時需要は6000万kW。予想よりも今夏の気温が高くなれば、需要が供給力を上回る恐れがある。また、東京電力は震災後に西日本の60Hz地域から100万kWの電力融通を受けているが、中部電力浜岡原発の休止に伴い融通量が目減りしたり、中部電力管内でも電力不足が顕在化したりする恐れも出てきた。東日本を中心とした電力の供給力不足は、数カ月のレンジでは解消が見込めない状況と言える。

今夏の「15%抑制」でも安心はできない

 一方、供給面の対策と並行して、政府は需要面の対策として、企業・政府・地方公共団体・家庭/個人に対し、最大電力量を昨夏比で15%抑制することを求める方針だ。

 ただ、電気事業法第27条(経済産業大臣による電気の使用制限)の対象となるのは、契約電力500kW以上の大口需要家に限られる。電気事業連合会の統計によると、家庭/個人の電力使用量は東電管内では3割強を占める。法の規制が及ばない家庭での自主的な抑制が不十分なら、いったんはセーフティネットに位置づけられた計画停電が、今度は東京都区部も含めて再び実施されないとも限らない。

 一過性では済まずに慢性化しつつある電力不足に対し、企業の情報システム部門が取るべき対策は大きく2つの分野に分けられる。一つは、システムそのものやシステム用の空調設備の使用電力量を減らす節電・省電力化対策。もう一つは、計画停電や不測の停電をにらんだBCP(事業継続計画)の一環としての対策である。

 事業所内でのシステムの節電・省電力化策としては、例えば日本データセンター協会が東大グリーンICTプロジェクトで得られた知見を基に、PC動作モードの管理・制御、サーバーの仮想化・集約、サーバーの移設、デスクトップPC/サーバーのノートPC化、サーバールーム内の工夫(エアーフロー調整、配線整理など)などを挙げている。

 一方、BCPの観点からは、システムの連続稼働や縮退運用の方法を確認したり、営業時間・休業日のシフトや在宅勤務(テレワーク)の展開などの事業・業務形態の変更に対応したりする必要がある。より具体的には、停電/復電時の電源切り替えやシステムのシャットダウン/復旧、データのバックアップ/リストアの手順確認、データセンターの自家発電装置の起動/停止手順や燃料の備蓄/調達ルートの確保、在宅勤務のためのインターネットVPN(仮想閉域網)環境の整備、安否確認システムの実効性の検証などが挙げられるだろう。

 電力不足という誰も経験したことがないリスクに、システム部門はどのように立ち向かっていけばよいのか。この答えを探すために、節電対策 緊急BCPセミナーとして、「企業システムに迫る電力危機---この夏を乗り切る対策とは」(5月24日緊急開催)を企画した。

 基調講演には、事業継続推進機構(BCAO)の副理事長を務める東京海上日動リスクコンサルティングの指田朝久 主席研究員が登壇し、「電力危機が企業活動にもたらすリスクとIT部門の対応策(仮)」と題して講演する。識者の講演に続いては、「今夏と今後の電力不足に向けIT部門は何をすべきか」をテーマにパネルディスカッションも実施する。パネリストには、JTB情報システム、綜合警備保障、大成建設の取締役・情報システム部長を迎え、日本データセンター協会の椎野孝雄 理事を交えて、節電・停電時にも事業を継続させるために情報システム部門が今取るべき対策について、具体的に議論する。

 短期的には終息が見込めない電力不足への危機対応を日常のものとして業務に定着させるために、ぜひご参加いただければと思う。