日経コンピュータ 2011年4月28日号で「IT主導の業務改革、再び」という特集を書いた。システム部門の最も重要な役割を、「開発・運用」から「業務改革や事業企画」へと変えるべきときが来た、という趣旨の記事である。

 「再び」とタイトルに付けたのは、日経コンピュータでは、システム部門が事業改革などを推進する役割を担うべきと過去に何回か主張してきたためだ。例えば、1999年1月4日号の特集「“情報化の担い手たち”の近未来」では、今後のシステム部門が果たすべき役割についてこう書いた。

 経営の視点と、物事を論理的に分析・整理するシステム・エンジニアリングの技法を併せ持った情報技術者を養成する。彼らがユーザー企業の業務やデータを分析し、ビジネス・プロセスの改革について適切な提言を出す。そして改革プロジェクトの進展をしっかり管理する。

 ただ、ここ最近の日経コンピュータでは、「システム部門が業務改革を主導しよう」といった趣旨の特集は書かなくなった。実現できる企業は少なく、多くの企業にとって理想論で終わってしまったためだ。

 また、時代背景が変わったこともある。1990年代に比べると2000年代は大型案件が少なくなり、多くの企業でシステム部門と事業部門の距離がだんだん離れていった。システム部門の課題も様変わりし、優先するシステム部門改革の内容も変わったというわけだ。

 例えば、2008年5月15日号特集の「“3ない”からの脱却」ではこうした内容だった。

 現状のシステム部門は、「信頼されない」「相談されない」、そして「貢献していない(と思われている)」という“3ない”問題に直面している。こうした現状を前に、「変われない」と嘆いていてはダメだ(中略)。ポイントは「利用部門と共にあるシステム部門に変わること」だ。

 これ以降も日経コンピュータでは、システム部門の置かれている状況を踏まえ、その時々で最も必要と思われる「システム部門の役割」を特集のテーマとして取り上げてきた。記者が今回の特集の取材を始めたときも、「今、求められている役割は何か」を考えた。

システム部門が「業務改革や事業企画に踏み出す必要性」を自覚

 取材を進めていくにつれて記者は、今こそ「IT主導の業務改革」が求められているのではないか、と思うようになった。

 こう考えるようになった第1の理由は、経営者からの要請である。取材した企業の多くは、経営者がシステム部門に対して業務改革や事業企画を推進する役割を担ってもらいたいと望んでいた。これは十数年前にはほとんどみられなかった傾向だ。

 経営者の要請を受け、リコーやIHIなどは、システム部門が業務改革や事業企画を推進するための体制作りを始めている。2社以外も含め、事例は特集をお読みいただきたい。

 第2の理由は、特集に合わせて実施したアンケート調査の結果だ。226社の企業に「今後3~5年間で、システム部門の役割や機能を変えていく必要があると思うか」との質問したところ、76.1%に当たる172社が「大きく変えるべき」もしくは「少し変えるべき」と答えた。

 しかも、「大きく変えるべき」「少し変えるべき」と答えた172社に「今後3~5年で重要度が増すと思うシステム部門の機能や役割」を尋ねると、「事業部門と共に新しい事業モデルを作る」と「事業部門と共に業務改善を進める」が59.9%で1位だった。多くの企業のシステム部門が、業務改革や事業企画に踏み出す必要性を自覚しているということだ。

 バックエンドシステムの構築がひと段落し、まだシステム化が進んでいない領域、すなわちフロントエンド業務や新事業のシステム化が求められてきた。こうした領域は業務プロセスの標準化が進んでいないことが多い。このため、業務改革までシステム部門が踏み込む必要性が生じてきた、と考えられる。

 取材とアンケートの結果を受け、潮目が変わり始めたと確信した。システム部門は役割を「業務改革や事業企画の推進」に変えるべき時期になっていると思った。

 こうして、特集「IT主導の業務改革、再び」を執筆した。この特集がシステム部門改革を進めようとしている方々へのヒントになれば幸いである。