情報通信分野において、ネットワークは重要だと言われながら、やはり見落とされやすい領域なのかなあ…。このところ、何度かそんなことを思った。

 我々メディアは、この時期に取材していると、どうしても話は東日本大震災に及ぶ。震災とは全く関係ない取材でも、「どうでしたか」くらいは尋ねるし、「本社機能を関西に移転したりはしないんですか」などと言ってみたりもする。当然、情報システムまわりの話なら、システムのトラブルや復旧について尋ねてみる。

 そして、周囲から話を聞いていると、冒頭のように「ネットワークって見落とされがちなのでは」などと感じるわけだ。決して軽んじられていると言っているのではない。ただ、物理的には見えない部分が多く、目を配る対象が広範囲に及ぶからか、トラブルの原因が、ネットワークに関連した、比較的単純なものであることが案外多い。

バックアップ電源は作動したのに…

 例えば被災地のあるユーザー企業。震災後は安否確認の目的も含めて、できるだけ早い連絡手段の確保に努めた。震災直後は停電もあり、どうにもならないとあきらめていたが、電源が復旧してもインターネットへの通信ができない。結果から言うと、これはインターネットに接続するゲートウエイのLANケーブルがLANポートごと抜けてしまったことが原因だった。

 インターネット接続の観点では、ごく基本的な部分だが、それが逆に原因が見つかりにくい理由になる。この事例の場合は、震災の影響で管理者が現場に行けず、電話を通じて口頭で確認する程度にとどまっていたことも影響している。

 ネットワーク管理者がいながら、ネットワーク部分についての見落としからトラブルに陥る例もある。例えば停電時の対応。用意してあったバックアップ電源によってサーバーには電力を供給し続けられたものの、実はそこにつながるまでのネットワーク(厳密には一部のネットワーク機器)には給電できていなかった。

 ほんのわずかな設計・設定ミスだ。それでも、突然の出来事を前に、そこに気付けるかと言えば、目に見えない部分だけに気付くのは容易ではない。そのうえ、サーバーは動いているのになぜ、と焦ってしまうと、原因はいっそう見えにくくなる。

見えないことの怖さ

 今回の震災を受けて、多くの企業がBCP(事業継続計画)の見直しを進めているはずだ。BCPといっても範囲は広いが、少なくとも情報システムやネットワークはどこかに関連する。ネットワークだけでも、サーバー間でのデータバックアップ用のネットワーク、各拠点からの代替経路となるネットワーク、緊急で確保できる連絡手段など、考えるべきことはいくつも挙げられる。停電のことを考えれば、こうしたネットワークを支える機器のバックアップ電源の供給体制も重要である。

 こうした環境を整えるだけでは十分とは言えない。重要なのは、それがきちんと機能するかを確認すること、そして実際に運用する場合にどの部分が正常に機能しているかを把握できる仕組みを設けることだろう。つまり、通信状況やネットワーク全体の構成(トポロジー)の「見える化」である。

 今、企業の情報システムでは隠ぺいされていたり、もともと目に見えなかったりする部分がかなり多くある。ネットワークでいえば、仮想化されたサーバー内部にあるネットワークがその一つ。クラウドコンピューティングのようなスタイルでは、サーバー側に数多くの論理的なネットワークが混在し、一層複雑になる。最近注目度がぐんぐん上がっている無線LANも、見えないものの例だ。BCPの見直しの一環として、こうしたネットワークの内部、つまり通信状況やトポロジー、それによる業務の流れの見える化が進められるのだろうと思う。こうしておけば、「現場は事業を継続できていることが分かっているのに、経営者だけが分かっていない」などといったことも起こらないはずだ。

 「見える化」という観点では、もう一つ、変更履歴をしっかり管理(見える化)することも見落とせない。ネットワークで言えば、設計したときの環境と方針、具体的なネットワーク機器の設定内容、その後の変更に伴う設定の変更内容や変更の理由といったものだ。これを無視して新たな仕組みを設けたり、設定を変えたりすると、思わぬトラブルを招く可能性がある。

 日経コミュニケーションでは過去4年以上にわたって本誌に連載してきた記事を1冊の書籍にまとめた。「ネットワークトラブル対応 徹底解説」である。エンジニアが現場で直面した実体験に基づく内容で、様々なトラブル事例を紹介してある。その中には「見える化」ができていなかったことに起因するトラブルが少なくない。

 冒頭にも書いたように、決して軽んじられているはずはないのだが、それでも見落とされるトラブル要因がネットワークに関連しているケースは多い。きちんとしたBCPを実現するうえでも、ネットワークエンジニアの方々には、ぜひ、参考にしていただきたいと思っている。震災後の連絡手段確保にインターネットが活躍する時代。復旧・復興にも欠かせないネットワークを支えるエンジニアの方々には、本誌・書籍を通じてエールを送りたい。