大震災など大きな災害が発生したときに、被災した地域の住民に向けて地域密着の情報を提供するメディアとして注目を集めるのがコミュニティFM放送である。

 震災地域におけるコミュニティ放送局や臨時災害放送局(注1)は、安否情報や生活支援情報など様々な地域情報を日夜放送している。その様子は、各新聞をはじめ多くのメディアが取り上げて報じている。地域の情報を集めて編集し流すという一連の作業の流れの中で、コミュニティ放送のスタジオは、一種のハブのような役割を果たしている。

 今回の震災は、範囲が広く、被害も甚大だっただけに、復旧・復興にはかなりの時間を要することになるだろう。この間、コミュニティ放送の生活支援情報の発信拠点という役割の重要性は、一過性のものではない。地域の回覧板のような情報、防災無線の代わりになるような情報など、提供すべき情報は様々ある。サービスの継続性が重要になる。

 インターネットが普及した今、情報の伝達手段は様々ある。しかし、今回被災した地域を見ると、過疎化した地域が多く、住民には高齢者も多い。簡単な操作で情報を受信できる環境でないと情報を入手できない人も多く、ラジオのような媒体は欠かせない。ラジオにはAM/FMラジオ放送などの県域放送もあり、それぞれの立場で地域情報を提供し続けるだろう。しかし、地域ごとに細かな生活支援情報を収集し、放送し続けるという意味では、やはりコミュニティ放送が欠かせない。

 コミュニティ放送には、もう一つの役割がある。今回の大震災では、心ならずもいったん故郷を離れざるを得なくなった人も多い。彼らにとっては、たとえ場所が離れても地域の情報を、地域に住んでいる人と同じように入手できて共有できれば、どれだけ心強いものだろうか。

 インターネット経由でコミュニティ放送を全国に配信する仕組みは既にある。サイマルラジオを行っているコミュニティ放送局の集団であるコミュニティ・サイマルラジオ・アライアンス(CSRA、代表:木村太郎氏)は、被災地域のコミュニティ放送や臨時災害放送局をインターネットでサイマル配信する準備を進めている。また、避難所など被災者が集まる場所において、ラジオあるいはインターネット配信を聴取できる環境整備も進める計画だ。

 今、各コミュニティ放送事業者は、自らの存在意義にかけて懸命に放送を行っている。しかし、元々コミュニティ放送局の多くは、経営基盤が安定しているわけではない。そのうえ、今回の震災で、地域の経済は疲弊し、かつスポンサー企業自体が地震や津波の影響を受けている。運営資金に不安を抱えることになる。

 未曽有の災害に対する国民の哀悼の気持ちは強く、義援金の呼びかけに多くの人々が賛同している。IT関連企業の多くも義援金を出している(こちらを参照)。また、読者の中にも個人で義援金を出した人も多いと思う。

 義援金とは別に、支援金という仕組みもある。被災地で活動するボランティア団体やNPOを支援するためのものである。今回は、コミュニティ放送を例に示したが、地域に根を下ろしたサイトの運営など、生活支援情報を伝えるメディアはいろいろある。筆者としては、企業や国民からの支援金の一部は、手弁当に近い形で生活支援情報を集めて流しているこうした活動を継続するための資金に回るべきだと思う。

(注1)臨時災害放送局は、暴風、豪雨、洪水、地震、大規模な火事その他による災害が発生した場合に、その被害を軽減するために役立つことを目的とし、臨時かつ一時的に開設される超短波(FM)放送局のこと。免許主体は自治体である。緊急対応に向けて、自治体からの申請に基づき、正式な書類はあとで提出する形であっても、まずは連絡をするだけで開設できるように制度が運営された。既存のコミュニティ放送をいったん休止し、自治体が臨時災害放送局を申請したケースもある。この場合、必要に応じて50W、100Wなどに増力して自治体による放送が可能になる。一部は、臨時災害放送局を廃止または休止後、通常のコミュニティ放送に戻して関連情報を提供し続けている。一般社団法人日本コミュニティ放送協会がまとめた4月7日時点の状況はこちらを参照。