日本のIT業界では、なぜかSEの販売・提案活動についてほとんど論議されない。SEの持つべきスキルうんぬんと熱く議論することはあっても、販売・提案活動の側面にまで踏み込むことはまずない。書店でもSEの販売・提案活動について論じた本は見かけないし、そうした雑誌の記事も皆無に近い。きっと「SEの仕事はシステム開発や保守である」とほとんどの人が頭から思い込んでいるからだと思う。

 しかし、IT企業は営業担当者だけでユーザーが求めている提案活動ができるのだろうか。もちろん筆者は「ノー」と言いたい。

 前回は、日本のIT企業のSE組織の在り方について問題提起し、「IT企業のSE組織は、システム開発・保守だけでなく営業と販売・提案活動も行うことが望ましい」と提言した。今回も引き続き、SEの販売・提案活動について述べる。

提案時に“技術の詰め”をもっとせよ

 ユーザー企業はシステム開発の際に、何社かのIT企業に提案を要請する。そして、自分達が考えていることをどうやれば具現化できるのか、IT企業の提案に期待している。それも「間違いなく実現可能な提案」を期待している。

 日本企業における情報システム部門の部員数は米国企業に比べて約10分の1であり、技術力に乏しい傾向がある。自分たちに経験のない製品を使ったシステムの開発では、その実現可能性を自らきちんと判断できない。メーカーが異なる多種多様な製品を組み合わる場合なら、なおさら良し悪しの判断が難しくなる。それゆえ日本の企業ユーザーは、その分IT企業に「間違いなく実現可能な提案」を期待しているわけだ。

 一方、IT企業もその期待に応えようとしている。どんな提案がいいかと知恵を絞り、「これなら実現できる」もしくは「これなら実現できるはずだ」と考えて提案している。

 だが現実には、いざ開発に着手してみると稼働時期が遅れたり、費用が膨らんだりしている。いろいろなトラブルを起こし、IT企業の提案を信じて成約したお客様に迷惑をかけている。IT企業に悪気はないのであろうが、これはある意味で“だまし討ち”のようなものだ。

 もちろん、買う側のユーザーにも責任はある。だが日本では、先々でトラブルにならぬよう「IT企業が提案段階でもっとしっかり技術面を詰めるべきだ」と筆者は思う。PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)が提案時に内容をレビューしているIT企業もあるが、それはあくまでもチェックにすぎない。提案段階で、お客様と生のやり取りをしながら技術面を詰める「第一線の人間」に技術力がないと、十分な詰めを行うことは難しい。

 とはいっても、ITの世界では実際にやってみなければ分からない点もある。特に大規模システムや技術的に高度なシステム、未経験の製品を使ったシステムなどの場合はそんなことが少なくない。また、開発するSEやお客様の技術者の能力が定かでない場合もしかりである。そんな時には、それらの点を明確にし、対策も考えた上で提案することが重要であるすると開発時の多くの問題は未然に防げる。

 ITの世界では、システム開発の成否は成約段階で30%が決まっていると言われる。リスクを抱えたシステムの開発において、納期・予算・品質という前提条件が決まった後では、いかに努力しても挽回の余地は限られている。読者の方々もシステム開発途上のトラブルを見聞きしていると思うが、提案段階における技術的な詰めの甘さに起因した問題だったことが少なくないはずだ。もちろん、それを見抜けなかったユーザーの技術力のなさにも課題がある。

 いずれにしてもIT企業はもっと技術的な詰めを販売・提案段階で行うべきであろう。それをお客様は求めているのだ。