激動の今、システム開発に最も求められるものは何か?こう聞かれたら、記者はおそらく「スピード」と答えるだろう。情報システムが社会・企業の基盤となった現在、「すぐに使える」「すぐに復旧する」「すぐに変更できる」といったスピードに関するニーズは高まる一方である。

 東日本大震災の後、多くのITベンダーは1週間経つか経たないかのうちに、自らの製品やサービスを無償で提供したり、復興に役立つツールを開発したりするなどの支援策を続々と打ち出した(関連記事)。このような取り組みはすべてが時間との戦いとなる。スピード開発を超えた、“超スピード開発”が求められる。

 従来の開発スタイルでは、超スピード開発を実現できないという面は否定できない。開発現場には速さを阻害する役割分担があったり、ゼロから作る部分が多くあったりする。これらを克服しなければ、超スピード開発は望めない。

 折しも創刊5周年を迎えた日経SYSTEMSの2011年4月号では、この超スピード開発を実現するための「開発の新常識」を徹底的に探っていたところだった。注目すべきは、“クラウド世代”と呼ばれ始めた20代から30代前半のエンジニアが、新たな常識を生み出している点である。

 特集記事では、新常識を数多く取り上げた。ここでは、そのうち三つの事例を紹介したい。視点を変えて、不可能だと思われた未来を切り開こうとする姿勢は、激動のときにこそ不可欠である。

[新常識1]時差を使った24時間開発

 NTTデータのある開発現場では、時差を使った24開発を取り入れ始めた。開発プロジェクトで時間が足りない場合、残業や休日出勤、2交代制や3交代制で乗り切るのが常だった。しかし、長時間労働によって疲れが溜まり、生産性が低下することは珍しくない。

 このチームでは、時差が日本と8時間、16時間ある海外拠点に開発現場を分散させて、それぞれ日中8時間仕事をすることで24時間ノンストップ開発を実現することを目指した。同じチームで一つのソースコードを開発していく点が、オフショア開発とは異なる。

 まずは日本とドイツ、日本とインドという2拠点で開始。ドイツとはちょうど時差が8時間、インドの時差は3.5時間だが出勤時間を4.5時間遅らせて8時間の時差となるよう調整した。

 今後は米国を含めた24時間開発に挑戦する計画だ。引き継ぎの難しさはあるものの、無理なく開発期間を2分の1(あるいは3分の1)に短縮できるという。従来の役割分担を抜本的に見直した新常識といえるだろう。