2011年3月11日に東日本大震災が発生して以来、自宅では震災に関するテレビ報道を食い入るように見ている。繰り返し報じられる津波の映像を見るたび、恐ろしさを感じると同時に胸が痛む。東日本大地震で被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。

 被災地でのテレビ報道を見ていて感じたのだが、「今、一番必要なものは?」という報道スタジオからの問いに、「情報」と訴える被災者やレポーターが多かった。特に、地震が発生して間もないころが多かったように思う。親族・知人の安否や地震・津波に関する情報など、被災者が知りたいと思う情報(とりわけ命にかかわる情報)が圧倒的に不足していたのだろう。その「情報不足」がもたらす不安がどれほどのものか、察するに余りある。

地下鉄の車内で感じた「情報不足」

 筆者も地震発生の当日、「情報不足」に対する不安を経験した。被災者の心情を考えれば取るに足らない不安だとは思うが、大切なことだと思うので紹介したい。

 首都圏に住んでいる読者の皆さんはご存知の通り、その日は首都圏の鉄道が全面的にストップした。夕方の時点では復旧の見通しが立っていなかったため、会社から徒歩で数時間かけて帰宅する人がかなり出た。筆者も自宅まで歩くと、おそらく4時間以上かかる。様子を見つつ、半ば会社に泊まる気でいたが、夜9時ごろから地下鉄の一部路線が動き始めた。

 その一つである大江戸線に乗れば、自宅の最寄り駅まではまだ遠いが、会社から自宅まで歩く場合と比べ、歩く距離を半分くらいに短縮できそうだった。筆者は帰宅することに決め、会社を出て隣の駅まで歩き、大江戸線に乗った。だが、それが不安とイライラを感じるきっかけとなった。

 駅構内や乗客の様子は落ち着いていたが、車内はぎゅうぎゅう詰めで、のろのろ走り、暑かった。混雑のせいで、停車駅では人の乗り降りにすごく時間がかかった。これは仕方ないことなので我慢していたが、一つだけ気になることがあった。それは車内アナウンスだ。

「もしかして自分は遠回りをしている?」

 大江戸線の車内では停車駅が近づいてくると、「次は○○駅です。△△線にお乗り換えです」といった内容の音声が流れた。録音された、定型の音声メッセージである。これを当日も流していたものだから、「今、△△線は動いてないから乗り換えられないよ」と突っ込みたくなった。

 こういうとき、乗客としては、他の路線の運行情報を車内でアナウンスしてもらえるとありがたいのだが、残念ながら、そういう定型外の車内アナウンスはなかった。駅のホームでは何かアナウンスがあったのかもしれないが、車内には全く聞こえてこなかった。

 実は大江戸線に乗る直前、隣接する別の地下鉄駅の改札口を通ったとき、「もう少しで運転を再開する」と電光掲示板に表示されていた。「ほかの路線も、順次、運転を再開し始めたのだな。状況はどんどん変わっている」と思っていたので、大江戸線の車内でも他路線の情報が得られると期待していたわけだが、かなわなかった。

 このとき筆者は、「もしかして、もっと自宅に近いところまで行ける路線が動いているかもしれないのに、“情報不足”というだけで遠回りをしようとしているのではないか?」と強い不安を覚えた。そして、暑苦しい車内にいるせいで、にわかに不安が膨れ上がった。