政府が導入に向け準備を進めている「社会保障・税に関わる番号」制度と「国民ID」制度。このうち社会保障・税に関わる番号は「共通番号」とも呼ばれる。ここ半年ほどで、どちらもマスメディアに登場する機会が増えたことで、国民一人ひとりを識別するために固有の番号を付ける制度の準備が進んでいることは広く知られるようになった。

 では、社会保障・税に関わる番号(共通番号)と国民IDは同じものなのだろうか。あるいは、違うものだとしたら、共通点と相違点はどこにあるのだろうか。

 現時点でこの問いに自信を持って答えられる人は、そう多くはなさそうだ。一般のビジネスパーソンだけではない。自治体の情報政策担当者、行政システムに関わるITベンダーなど、実務上の関連が深そうな関係者の口からも、明確な説明を聞けないことがある。それどころか、共通番号や国民IDの制度のあり方を議論する政府の検討会やワーキンググループのメンバーの間でも、時に混乱が見られる。

 2月24日、国民の理解を得ながら制度導入を図る目的で設置された番号制度創設推進本部は、「社会保障・税に関わる番号制度」で国民に割り当てる「共通番号」の名称の募集を始めた(関連記事)。“親しみやすい名称”を募るとしているが、国民の理解が十分とは言えない現状では、あまり大きな告知宣伝効果は期待できそうにない。案の定、ブログやツイッターなどのソーシャルメディア上では、冷めた反応が目につく。

 制度整備の議論の途上では断定的な説明がしにくいという事情は理解できるし、分かりやすく単純化した説明には不都合の隠ぺいや予期しない誤解が紛れ込むリスクもある。とはいえ、よりよい制度にしていくためには、正しい理解に基づいた多くの人々による幅広い議論が大切だ。現時点での政府内での議論の方向性に基づいて、社会保障・税に関わる番号と国民IDについて平易な説明を試みる。

個々の国民は国民IDを使わない

 社会保障・税に関わる番号を指す「共通番号」は、例えば「1234567・・・」のような数字の並びになる(英字を含む可能性もある)。健康保険組合員証、年金手帳、介護保険被保険者証などの役割を持たせる新しいICカードの券面に記載して、国民一人ひとりに配布することを想定している。行政機関の窓口で提出書類に記入するなど、国民が“自分の番号”として意識して使うものになる。番号制度創設推進本部が名称を募集しているのは、この番号である。

 一方の国民IDは、共通番号と比べると分かりにくい。政府の検討会などで「国民IDコード」と呼んでいるこの番号は、国民一人ひとりに割り当てられるものの、通常は人の目に見える形では存在しない。番号制度の導入の目的である「名寄せなど行政機関間での個人情報の連携を実現する」ために、「情報連携基盤」と呼ぶコンピュータシステム内だけで使われる。このため「連携番号」と呼ぶこともある。国民や行政機関の事務担当者が直接使うものではないので、国民には通知しない見通しである。

国民IDは一つだが“共通番号”は複数になる?

 社会保障・税に関わる番号を指す「共通番号」は当面、社会保障(年金・医療・福祉・介護・労働保険)と税(国税・地方税)の分野だけで利用する。この意味で、「共通番号」の“親しみやすい名称”が例えば「社会保障・納税番号」のようになるなら“自然”と言える。

 ただし、“共通番号”の利用分野は、将来的に社会保障・税以外にも拡大していく。正確には、当初の「共通番号」は将来的にも社会保障と税に限定して使用されるかもしれないが、共通番号と同じ仕組みの異なる番号が新たに国民に割り当てられて別の行政分野で使われる可能性がある。

 こうした番号は国民が行政窓口などで実際に利用することから、情報連携基盤の中だけで使われる国民IDコードを指す連携番号と対になる用語として、「(行政分野ごとの)利用番号」と呼ばれている。つまり、社会保障・税分野に用いる「共通番号」は、「利用番号」の一つであり、将来的には異なる行政分野で「利用番号-m」「利用番号-n」などが続々と国民に割り当てられることになるかもしれない。