ちょっと想像してみてほしい。あなたの勤務先に2つの職場があるとする。「業務を遂行する際に大量のチェックリストを渡されて、作業を終えるたび成果物をチェックするよう命令される職場」と「チェックリストが無くても作業ミスを防げるよう作業手順の改善が日々行われている職場」だ。どちらかを選びなさい、と言われたら、どちらへの配属を希望するだろうか。たぶんほとんどの人が、後者を望むのではないだろうか。

 それにもかかわらず「ヒューマンエラーで起きた品質事故の再発防止策を考えろ」と言われると、原因は「担当者の注意不足」とし、対策は「チェックリストを作り確認を徹底」としてしまうマネジャーが、少なくないらしい。

 筆者がこのことを意識するようになったきっかけは、旧所属部署(2010年12月まで日経情報ストラテジー編集部)で担当した「なぜなぜ分析」の連載記事だ。この連載は、独立コンサルタントであるマネジメント・ダイナミクスの小倉仁志氏が、ホワイトカラー職場の人も読めるよう分かりやすくノウハウを解説するもの。既に1年半以上にわたる長期連載になっている。

人は他人の失敗の原因を「注意力不足」と見なしがち

 最初に小倉氏が安易なチェックリスト作成について警告を発したのは、2010年8月号だった。以下に該当部分を引用する。

「QC活動はやれる人材が、原因追究の仕方を身につけていなかった」──。今回のKリーダーのようなありさまに気づいたという経営者の声は実は多い。そもそも従業員に教えていなかったという。そのような企業で対策書を見てみると、原因は「チェックが不足していた」で、対策は「チェックリストを作成する」と記載されていることが驚くほど多い。
(日経情報ストラテジー 2010年8月号『なぜなぜ分析のここが落とし穴<実践編> QC活動のスキルと再発防止は別物』より)

 小倉氏はその後も同連載で再びチェックリストに触れている。

なぜ『気づかなかった』のか?」について検討しても、毎度のように「『確認していなかった』から『チェックリストを作成する』」という結論を導き出してしまう企業が実際は多いようだ。
(日経情報ストラテジー 2011年1月号『ミスの見過ごしを分析、「気づきづらさ」も』より)

 いつも九州や四国、時にはアジアなどへと指導に飛び回っている小倉氏が何度もこうして書いているのだから、チェックリストを作りたがる現場はやはり多いのだろうと思わざるを得ない。

 そもそもなぜ、改善活動をチェックリスト作成で終わらせてはいけないのか。これは改善活動の素人である筆者であっても、連載内容を振り返ればおよその理由は見当がつく。「正しく原因を掘り下げていないうちから、取りあえず対策を打ち出せた気になってしまうから」「エラーが発生しない仕組みを検討する、という作業プロセスの改善につながらないから」――といったところだろう。

 想像が難しいのは、「なぜ小倉氏が警告しなければならないほど、チェックリストを作って終わりにする現場が多いのか」である。これを当てずっぽうで考えるのは、それこそ「現地現物主義」から外れているのだが、取りあえず編集記者としての自らの失敗・品質事故などを振り返りながら3点想像してみた。いったんここは仮説にお付き合いいただきたい。

(1)人間には、他人の失敗を「注意力不足(確認不足)」と決め付けたがる傾向があるから
(2)途中の作業に何か問題があったとしても「最終的に危ない点はまとめてチェックすれば大丈夫」というバッチ処理的発想があるから
(3)何か1つのトラブルが起こるついでに、思い浮かぶリスク要因もリストにまとめて盛り込んでしまえば、品質向上活動がますます充実するという錯覚があるから

 ここまで考えたところで、小倉氏にメールで関心のポイントなどを伝え、考えを聞いてみた。