この連載では「ダメに見せないことで評価を高める」ための仕事術を扱っている。前回(「本質」が見えない人はなぜ多いのか)から、五つ目のネガティブ特性である「本質が語れない、理解が浅い」を取り上げている。ネガティブ特性は以下の通りである。

  1. 先を読まない、深読みしない、刹那主義
  2. 主体性がない、受け身である
  3. うっかりが多い、思慮が浅い
  4. 無責任、逃げ腰体質
  5. 本質が語れない、理解が浅い
  6. ひと言で語れない、話が冗長
  7. 抽象的、具体性がない、表面的
  8. 説得力がない、納得感が得られない
  9. 仕事が進まない、放置体質
  10. 言いたいことが不明、論点が絞れない、話が拡散
  11. 駆け引きできない、せっかち、期を待てない

 前回は、「本質をつかむとはどういうことか?」「人はなぜ本質をつかめないのか?」を中心に説明した。今回は、ビジネスの世界において「本質とは何か」を改めて見ていく。その上で、「本質が語れない、理解が浅い」というネガティブ特性を改善するためのマインドセットとスキルセットを説明する。

ビジネスの世界では「本質=真の課題」

 前回も説明したように、哲学用語の「本質」は本来、「ある事柄において中心を成す普遍的なもの」であり、「唯一無二の真理」であるとされている。すなわち、一つの事柄に複数存在するものではない。

 しかし、日常的なビジネスの世界では、本質という言葉が厳密な意味で使われているケースはほとんどない。筆者はそう考えている。

 ビジネス上の議論で、「君の言うことは本質ではない」「私はこれが問題の本質だと思う」「あなたのアプローチは本質をはずしている」といった言葉を聞く機会は多い。筆者も社会人として20年、教育コンサルタントとして10年活動してきたなかで、このような会話を数多く耳にしてきた。特に役職が上がるにつれて、「本質」という言葉を使いたがる傾向があると感じる。

 筆者の結論は、「多くのビジネスパーソンが使う本質は、本来の意味での本質とは異なる」というものだ。ビジネスの世界における本質とは、「仕事をする上で取り組むべき真の課題」という意味だと捉えるようになったのである。

 ビジネスにおける成果や結果は、「成功」「やや成功」「失敗」「やや失敗」など、実に多種多様だ。こうした世界で、本当の意味の本質を追い求めたり議論しても仕方がないのではないか。筆者が上記の結論に達したのは、こうした考えからである。

 このように考えるようになってから、議論の中で「本質」という言葉が出てきても混乱しなくなった。筆者はそれ以降、自信をもってこの「本質とは真の課題である」という考え方を、企業での実務や教育コンサルティング活動で生かしている。

「本質」は人によって異なる

 ビジネスの世界での「本質」が取り組むべき真の課題であるというのは、ある事柄にいくつもの本質が存在することを意味する。ビジネスの世界には唯一無二の答えは存在せず、問題の捉え方や課題を認識するやり方は人の経験、知識、思想、考え方に影響されるからである。

 上司が本質(すなわち、真の課題)と思うことを、部下が本質と思わないことは当然あり得る。逆に、部下が考えている本質とは全く異なるものを、上司が本質だと考えているケースも珍しくないのではないか。

 つまり、ビジネス世界での本質は人によって異なるのである。これが「本質がつかめない人」を生み出す要因になっていると、筆者は考えている。例を挙げて説明しよう。