IFRS(国際会計基準)を日本の会計基準として採用する強制適用があった場合、会計システムを中心とした基幹系システムが影響を受けるのは自明だ。ところが、IFRSは決まっていないことが多く、システムの要件を確定するのが難しい---。

 基幹系システムを刷新中の企業に取材すると、必ずこういった会話になる。現時点でIFRSは大きな改定の真っ只中にある。基幹系システムをIFRSに対応させようとしても、その対象自体が変わっていくので「対応しようがない」というのが日本企業の置かれた状況だ。IFRSへの対応は、基幹系システムの刷新や、刷新を計画している企業にとって、非常に厄介な課題となっている。

 各社は、こうした状況にどのように対応しているのだろうか。取材を通じて分かったのは、「変化に強い」システムの構築を目指しているということだ。

変化が起こったときに素早く対応する姿勢が大切

 なぜ変化に強いシステムが必要なのか。基幹系システムをIFRSに対応させる際には、「変化が起こったときに素早く対応できるようにする」ことが重要になるからだ。

 現在、IFRSと米国の会計基準との差異をなくす取り組みが進んでいることはご存じの方も多いと思う。2011年6月までに、売り上げ計上のタイミングを決める「収益認識」や、リース資産の取り扱いを決める「リース」といった会計基準の骨子が発表される見込みだ。ただし、IFRSを決定しているIASB(国際会計基準審議会)の理事によると「スケジュールは遅れる可能性がある」という。

 特に収益認識は、基幹系システムの随所に影響を及ぼす可能性がある。会計だけでなく、販売や購買といった業務もかかわる。IFRSでは「リスクが相手先に移転した時点で売り上げとみなす」という趣旨の考え方を採用している。一方で現在の日本の会計基準は「出荷した時点」が売り上げ計上のタイミングとみなされている。

 基幹系システムの稼働後にIFRSを適用した場合、出荷時点で売り上げを計上する機能だけでなく、相手先にリスクが移転した時点で売り上げを計上する機能を用意する必要があることになる。リスクが移転する代表例が、相手先に商品が着荷した時点を売り上げ計上基準に採用することだ。要件を定義する場合、相手先に製品が移転した時点を認識できる機能を基幹系システムに盛り込むといったことを考える必要がある。

 IFRSは変更が多いことから「ムービングターゲット(動く標的)」と呼ばれている。IFRSと米国の会計基準の差異を埋める取り組みが終わった後も財務諸表の様式の変更や、過去に定義した会計基準の変更も予定されている。

 IFRS強制適用のタイミングも問題だ。日本でIFRSが強制適用になる場合、早くて2015年または2016年からの適用になる。現在、刷新中の新システムの利用を開始するのは、IFRS強制適用よりも前になるケースがほとんどだろう。IFRSの大きな影響を受けるのは、システムの稼働後ということになる。

 つまり、刷新中の基幹系システムでは強制適用までのIFRSの変化に対応する必要があるだけでなく、強制適用後の大きな変化にも対応しなければならない。各社が「変化に強い」システムを目指すのは当然といえる。

 「IFRSの大きな改定が終わるまで、基幹系システムの刷新を待つ」という選択肢もあり得るが、多くの企業では困難だろう。当たり前だが、IFRS対応のためだけに基幹系システムを刷新する企業はない。基幹系システム刷新の背景には、「企業グループ全体の正確な経営数値を把握する」「M&A(合併・買収)によって各社個別だった業務プロセスを標準化して効率化するための土台にする」といった経営陣からの要請がある。IFRS対応は基幹系システム刷新の一つのきっかけにはなるが、主目的にはならない。

グループ全体で基幹系システムを統一

 企業グループでの統一システムは「変化に強い」システムの一例である。現在、グループ全体で基幹系システムを刷新している東芝が、この方法を採っている。アプリケーションやデータをグループで統一しておき、要件に変更があった場合、基準となるシステムを変更すれば、グループ全体のシステムを変更できる。

 ERP(統合基幹業務システム)パッケージを利用している場合は、バージョンアップができる体制を整えておくことも変化に強いシステムを作る方法の一つだ。アドオン(追加開発)ソフトを極力減らす、業務に変更の多い業務にはERPパッケージを適用しないといったことを要件定義の段階から考慮しておくことで、会計基準の変更に合わせて即座にバージョンアップできるようになる。

 日本オラクルのERPパッケージ「Oracle E-Business Suite」を利用しているユニヘアー(旧アデランスホールディングス)は、アドオンソフトを極力利用せずに、ERPパッケージの持つ業務プロセスに合わせることで、統合した2社の業務プロセスの標準化を進めている。同社が構築している基幹系システムは日本でのみ適用を始める計画だが、IFRSが適用になった場合は海外のグループ会社に展開することでIFRS対応の負担が軽減できるとみている。

 変化に強いシステムはIFRS対応に限らず、事業内容や業務に変化があった場合も素早く対応できるはずだ。ここで挙げたのは、変化に強いシステムのごく一例にすぎない。もっといろいろな取り組み方があるに違いない。各社がどのように変化に強いシステムを構築したのか、日経コンピュータやITproで随時紹介していければと考えている。

お知らせ
 2011年3月15日、セミナー「業務・システム視点でのIFRS対策のすべて(総合編)」を開催します。日々変化するIFRSの会計基準・公開草案の最新情報をもとに、IFRSが情報システムに与えるインパクトと対策を網羅的かつ具体的に解説します。販売管理システムから、財務会計システム、経営管理システムまで15システム66サブシステムを徹底解説。詳細はこちらをご覧ください。